『xyzと少女とバーテンダー』

バーテンさん、大人になるっていったいどういうこと?

んー?しらねぇよ。 風俗とか一人で威風堂々といけることじゃねぇの?

それって楽しいの?普通に彼女を作っても一緒のことできるよ?

んー・・・。あれじゃね?

その彼女様が ヒくようなプレイをしにいくところが風俗なんじゃね?

うーん、よくわかんないや。

だけど、男の人って彼女がいるのによくそんなことできるよね。

いや、まぁ、男ってさ飽くまでもそこに求めるのは肉欲のはけ口であって恋愛感情ってのは基本持ち込まないんだよ。

だけど、女ってのはタチが悪くて淋しいだとかいって、一般の男相手にその埋め合わせとして全ての感情を持って行くからな。

あぁー怖い怖い。

ふぅん、まぁいいや。 お酒頂戴。最高に美味しいの。

あいよ。カクテル、xyzだ。

なにそのお酒。へんてこりんだねー

言葉遊びだが最高の酒だ。 まぁ、代理店長の俺が作った酒だから対した味じゃねぇが・・・

ってお前未成年じゃん。 返せ、俺が飲む。

ちぇー

ほら、飲むヨーグルトとレモンジュースのカクテルだ。

・・・ジュースじゃん。

アルコールが入ってなくても混ぜちまえばカクテルなんだとよ。

なんだかなー もぅ。

気怠い夜の時間は過ぎていく。

店内にかかるチックコリアのレコード。 二人しか居ないこの店には弦バスの音が優しく包むのがわかるくらいに静寂が漂っていた。

その静寂を振り払うように少女はバーテンダーに抽象的で、答えがなさそうなことをたずねる。

...バーテンさんって世界が広がっていく感覚を味わったことある?

あぁーあるある。

車と中型免許を持った時世界が広がっていく感覚があったかな。

18の時だっけかな

自分が見るものに新鮮さってのが無くなっていたんだが、それらに乗り始めるとさ、ガキのころに自転車を与えられたあの時と同じ感覚が蘇ったね。

こいつがあったら隣町だって、おばあちゃんちにだってどこにでもいける。

そんな不思議な感覚がな。

私には・・・ないな。

そりゃぁそうさ、お嬢ちゃんはまだ若い

年端もいかない生娘(きむすめ)ってのはまだ、世界が広がっていく最中なんだよ。

自分がその中心にいるうちは気がつかねぇんだ。 人間ってのはそういう風に出来てる。

お嬢ちゃんがそれに気がつくのはな

キスをして、 愛し合う恋人の体温を知って、 苦くて飲めなかったコーヒに温められて、毛布の無意味さを知って、

体に悪いと言い聞かされていた煙草をふかしている時にふっと気がつくものなのさ。

世界はこんなにも広かったのか、とね。

神様って意地悪だろ?

・・・いつもながら意味がわからない。

ふふ、まぁいずれわかる。

人間ってのはいつだって過去の青く煌めいた時間に想いを馳せる生き物なんだからな。

本当かしら。

あぁ、本当さ。 君もいつかは、この甘ったるいノンアルコールカクテルと飲めなかったxyzだって

無駄とも思えるほど気が遠くなる長いこの夜だって

いつかは自分が大人になり生きていくために必要な原動力ともいえる「想いを馳せる過去」とやらになるのさ。

へぇー・・・

ぷるるるん。ぷるるるるん。

おっと失礼電話だ。

侍さんもう閉店の時間ですよ、戸締りちゃんとしておいてくださいね

僕ももうすぐ付きますのでそれまでにはしておいてくださいね

さぁ、アリスもただの少女に戻る時間だ。

送っていくぜ。

あ、そうだ、お金出さないと。

お代は未来の艶やかになった美女にでも付けておくよ。

ふふ、ありがとう。バーテンさん

じゃぁ、バーテンさんにはチップをあげる。

チップ?

はいどうぞ。

電話番号? どうした急に、店の雰囲気によってしまったか?

ふふ、そうかも。

だけど、こういった無駄と思える行為も無駄にならないんじゃなかったの?

こいつはまいったね。

君をアリスと呼びたいが、小さなレディとしての風格がそれを邪魔をするようだな。

うふふ

じゃぁね、バーテンさん。 自分、ひとりで帰れるから。

まだ私の知らないようなことをこれからもたくさん教えてくれたら嬉しいな。

ばいばい。

ふぅー・・・はぁー

いつだって変わらない味のハイライトの煙草。

人間もこうやって変わらずにいたいと思っているが、過去を振り返ってみれば人は変わっていきたいと願っているんじゃないか。

なんてそんな矛盾に気がつく。

タバコだってそうか、自分が吸っているタバコも現代にあうようにブレンドされて今がある。大した差じゃないかもしれないが、変化している。

変わらずには生きていけない...か。

これって悲しいことなんだろうか どう思うかいそこのキミ。

おーい、早く帰りますよ侍さん ちゃんと戸締りしてますか?

あ、あぁ、わりぃわりぃ!DSしてたから全然してなかった。

まったくもう!どうせ、お客さん来てないんだからすぐ片付け終わるでしょ?

僕明日学校だから早く寝たいんですよね

・・・?  グラス?

人来てたんですか?

あぁ、俺が喉渇いたから飲んでたやつだ。

全くもう!ダメダメですね、侍さんは!

はは、悪い悪い。さぁ、ちゃっちゃと戸締りして帰ろうぜ!

こうして夜は更けていく。

x y z アルファベットはここで終わりだが、そのカクテルがまた始まりを告げるように終わることなく人の縁は廻り廻る。

B
e
f
p
q
r
s
K
O
キーボード操作
  • J 次のページ
  • K 前のページ
  • [ 最初のページ
  • ] 最後のページ
  • E フキダシのモーションON/OFF
  • 0 自動ページ送りOFF
  • 1 自動ページ送り (おそい)
  • 2 自動ページ送り (ふつう)
  • 3 自動ページ送り (はやい)
  • P 自動ページ送りの停止/再開
  • ? キーボード操作の表示
もう一度みる
他の作品をみる
公開日 2012/11/02 18:10 再生回数 40

作者からのコメント

自分のバーテン時代、酒はつくらず人の話を聞くだけだった。テーブルを挟めさえばすればお客さんは自分のことを話しだし、自分は、はいともいいえとも言わずに話を聞き抽象的な言葉を返す。客は何かを決断しようとしているが、その人の中では大方答えは決まっている。ただその考えに自信が持てない人が多いのだ。誰かのせいにしたい、そんな場所

みんなのコメント

ログインしてコメントを書く…