“天井裏の元恋人【前編】”

天井裏の元恋人

チュン・・・チュン・・・

それじゃ、行ってくるぜマイハニー。

なるべく早く帰ってきてね、ダーリン。

ハニー・・・。

ダーリン・・・。

ギュッ・・・。

あぁ、 いつまでも君とこうしていたいよ。死が二人を別つまで・・・。

そんなの嫌よ、ダーリン・・・。私は来世もダーリンと一緒になりたいわ。

あぁ、そうだね! 嬉しいよマイハニー!

ダーリン!

チュッ

・・・・・・。

・・・・・・。

・・・・・・。

はよ仕事行けバカ夫婦。

バス停前

うわぁぁぁ! ハニぃぃいいい!

ダーリーン!

はにぃぃぃいいいいいいい・・・!!

ブロロロロ・・・

ダーリン・・・!

必ず、帰って来てね・・・。

いや、あんたも仕事でしょうが。

嫌っ! 嫌よ! ダーリンがいないのにも耐えられないのに、ダーリンの香りのする家からも離れるなんて!

それが息子に対する口調か! ほら、昨日親父が使ってたタオルあげるから。

あぁ、ダーリンの香り・・・!

やれやれ・・・。

ほら、バスが来たよ。

タカシちゃん、いつもありがとうね。

何を今更・・・。

恩を感じているなら、ちゃんと家族会議に出てほしいんだけどねぇ・・・!

今のところ、息子しか出席してないんだよね。おかしいよね、これ。 おかしいよね!?

あ、バスが行っちゃうわ。ごめんなさいタカシちゃん。話は帰ってからね。

事故と怪我に気をつけるのよ! あとね、病気とね、風邪とね、友達関係と勉強と、あとね、あとね・・・

天井に大きめの生き物がいるみたいだから、かまれないようにするのよ! 業者が来るまで刺激しちゃだめよ!

奥さん、すいません。危険ですので窓から身を乗り出さないでください。

運転手さんに迷惑かけちゃだめでしょ! 大人しくしなさい!

申し訳ありません・・・。ご迷惑をおかけしまして・・・。

ブロロロロ・・・

ハァ、行ったか・・・。

どうでも良い時にだけ親面すんの止めてくんないかな、ほんとに。地味に傷つくんだよね・・・。

あらあら、タカシくん。今日も大騒ぎだったわねぇ。

あ、お隣の中島さん。おはようございます!

おはようございます。タカシくんはいつも礼儀正しいわねぇ。私の子どもに爪の垢を煎じて飲ませたいわ。

いえいえ、そんな! 和郎(かずろう)先輩には学校でいつもお世話になってますし、

芙弓(ふゆみ)ちゃんにはいつも良くしてもらってます。僕こそ二人を見習いたいです。

あらあら、嬉しい事を言ってくれるわねぇ。

あのご両親では何かと大変だと思うけど、困ったことがあったらいつでもうちに頼ってくれていいからね!

うっ・・・ありがとうございます。

(『あのご両親』って・・・やっぱりそう思われてるのか・・・)

・・・・・・。

タカシくん、学校まで少し時間あるかしら?

はぁ、十分ほどでしたら・・・。

じゃあ、ちょっと隣のおばちゃんのお話、聞いてくれないかしら。

あれは、まだご両親が結婚する前のことだったわ・・・。

うぅ・・・どうして・・・どうしてなの・・・?

史子(ふみこ)、元気出しなさいよ。男なんて星の数ほどいるんだから。

違うわ。ふられたことを言ってるんじゃないの。どうして彼が離れてしまったのかが分からないのよ。

馬鹿ねぇ。そんなのどうせ、目玉焼きにソースをかけただとか、唐揚げにレモン汁を勝手にかけただとか、

そういうくだらないことに決まってるわ。男ってそういう生き物よ。考えるだけ無駄よ。

そんな! 邦夫(くにお)さんはそんな人じゃないわ! 私が一番分かってるもの!

・・・訂正するわ。馬鹿なのは邦夫だけじゃない。史子、あんたもよ!

な、何よ! 急に・・・。

あんた、別れる時なんて言われたか覚えてないの!? 「君は分かってない」って言われたのよ!?

分からせようともしなかった邦夫が馬鹿なのは言うまでもないけど、分かったフリをしていたあんたは・・・

親友のあたしから見てもすごくかっこ悪かったわ。テレビでよく見る頭の悪い女ってやつにそっくりでね!

う、うさちゃん・・・。

・・・・・・。

あたし、言いすぎたかしら・・・。

謝らないで!

うさちゃんが謝ったら、 さっき言った言葉の意味が無くなっちゃうわ・・・。

ごめんなさい。考えたいから、しばらく一人にさせて。

史子、あたしはいつでも、あんたの味方だからね・・・。

うん、ありがとう。

そんな時よ。あなたのお母さんがお父さん、つまり隆夫(たかお)さんに出会ったのは・・・。

(ま、前フリなげぇ・・・)

(中島さんと母さんは仲が良いなあ、とは思ってたけど、結婚前から知り合いだったのか・・・)

まあ、そこからは、もうあんな感じでね。

(あんな感じって言われた・・・)

隆夫さんは立派な人でね・・・。

・・・・・・。

立派な人でね・・・。

(正直に似た者夫婦って言ってください・・・)

お父さんの事情は詳しくは知らないけれど、お母さんと似たり寄ったりだったらしいわ。

(え、事情まで似てるの!?)

だから、二人があんな感じなの、どうか許してあげてちょうだいね。

一生に一度の相手みたいなものだから。

って、そんなこと言っても、こんなの大人の事情よね。ごめんなさい。

いえ、父と母にそんな過去があったなんて知りませんでした。お話してくださってありがとうございました。

・・・無理しなくていいわよ。

・・・っ!

あたしタカシくんのこと、もう一人の息子だと思ってるから。何か言いたいことがあれば、なんでも言ってね。

ありがとう、ございます・・・。

あら、もう十分過ぎちゃいそうね。ごめんなさいね、ひきとめちゃって。

いえ、ありがとうございました。それでは失礼します。

やっぱり、無理してるのかしらねぇ・・・。

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Posted at 2012/09/30 11:14 Viewed 18 times

From Author

完結短編です。なんかネットのニュースを見ていたらこんなのhttp://news.livedoor.com/article/detail/6988494/があって妄想を広げていたらこんなことになってしまった。【中編】http://www.kimip.net/play/x4r1D ※2ページめでまさかのミス!

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