今、あなたの家の前にいるよ…。
……。
ちょっとォ!
ジャマしないでよねェ!
私が先に荷電したんだから、家に上がりこんで契約するのは、「メリーさん」なの!
都市伝説業界(都界)で「契約」は、「驚かす」、という意味です。
でも、先に家の前に辿りついたのは僕なんですから、
家に上がってお客様と契約する権利があるのは、「さとるくん」なんだと思うんですよね。
なので、この案件は僕「さとるくん」が引き受けますので、「メリーさん」はお引取りください。
うるさい! うるさい! うるさい!
こっちは生活かかってんだっつーのッ!
今日まだ1軒も家に上がりこむ所まで行けてないのッ!
このまま会社に帰ったら、絶対上司に怒られちゃうよォ…。
「お前はまた0件か」って…。
「霊だけに、0件か」って…。
…ア、アンタ、見たところ学生っぽいし、何不自由ない暮らししてるんでしょ?
私、クビになったら家賃払えなくなって、アパート追い出されちゃうのよ…。
だから、ここは「メリーさん」に譲ってよ。人助けだと思ってさッ。
いやです☆
なんて冷たい子! ドライアイスみたいに消えてくれたらいいのに!
あはは
無理してウケなくていいから、逆に傷つくッ!
僕、あと1件で月間顧客契約数No.1になって、50万円のボーナスが手に入るんです。
〆切が今日の未明なので、ここは何としても押さえておきたいんですね♪
それに、車買いたいですし。
ムキーッ!!!
学生の癖に車とか、ムキーッ!
あのォ…、早くしてもらえませんか?
お客様とのアポイントの時間もありますし。
フッ…、ここで言い争ってもしょうがないって訳ね…。
それなら、先に契約した方が勝ちってことで。
いいでしょう、望むところです。
ピンポーン!
どーも、「メリーさん」でーす! 開けてくださーい!
正面突破とか…、ないですね…。
だから、0件なんですよ。あなたは。
…霊だけに。
一方、さとるくんはベランダを使った。
えっ?! そんなのアリ?!
ウチん所のマニュアルには、そんな事書いてないんだけど…ッ!
都界では、お客様と契約できない原因の第1位が、「そもそも玄関すら開けてくれない」である。
…で、でも。いくら怖くても、何だかんだ言って人間って、玄関のドア開けちゃうんだよね。
ガチャ!
ほらね!
ガチャン☆
ドアチェーン?!
…、何だよ…、誰もいねぇじゃねえか…。
やっぱり、…あの電話はイタズラか…。
こーこーに、いますよーー!!
何でドアチェーンしてんのさッ、男の癖にビビってんじゃねーよッ?!
あのぅ…、可愛い可愛い「メリーさん」に契約されたくないですか?
さっきみたいな勧誘の電話って、結構かかってくるかと思われるんですが、
ウチん所と契約してくれたら、そういった勧誘の電話が一切無くなるよう対応させていただきますよ!
あ、あと、商品券もつけますんで。
とりあえず今日はプランの説明だけでもさせていただければなぁと思いまして…、
バタンッ! ガチャッ!
あぁッ!
う…、うわああああああぁっ!
きっと「さとるくん」に契約させられたんだわッ!
うぅ…、もうダメだ…。
絶対クビだよぅ…。
ガチャッ!
驚かせるの、気持ちいいなぁ☆
……。
…ほら、開けてあげたんだから入りなよ。
…だって、彼はあなたが契約したんでしょ…?
もう…、ここには用がないっていうか…。
ふーん。
じゃあ、もう一人の客も、僕が契約しちゃおっかな~?
…えっ?
君がさっき荷電したのは、ここの長男。
僕がさっき契約したのは、次男さ。
声がそっくりだから、お互い同じ人に荷電していたと勘違いしていたんだよ。
……。
…早く契約すれば?
今の悲鳴に気づいて、長男さん逃げちゃうかもよ?
僕はもうノルマ達成しちゃったし、今から1件2件取っても、さほど給与に影響ないんだよねェ。
…あ、ありがとね。
あなたのお陰で、私もうちょっと生きていけそう…。
……。
…僕に感謝してよね。
じゃ、もう行くから。
…借りができちゃった…。
今度会ったら、缶コーヒー奢ってあげようかな…?
…何なんだよ、さっきの弟の悲鳴…。
俺のところにも、…来るっていうのか?
プルルルル…。
…も、もしもし?
…アタシ… メリーさん…。
今……
・・・・・・・・・・・・・・・
ア ナ タ ノ 後 ロ ニ イ ル ノ
う……、うわああああああああぁぁッッ!!
ふぅ…、勧誘成功っと!
あの世への…、ね。
現代、各企業間での勧誘競争が絶えない。