“子ほめ 前編”

こんちはー!

はいはいーっと。

おう、誰かと思ったらお前さんかい。まあ玄関で立ち話もなんだ、入りなさい。

へいへいこりゃどうも。お邪魔しやーす。

熊さん、ネタは上がってるよ?

なんだよ藪から棒に。

今さっきそこでね、小浜んとこの奥さんから聞いたんだ。

熊さんのとこに、『ただの酒』があるよって聞いたもんだからね。こうしてわざわざ足を運んでやったわけよ。

そういうわけでさ、早速飲ませてくれよ、『ただの酒』! なんたって『ただ』なんだからね! ただより高いものは無し! さあさあさあ!

尋ねてきたと思ったらいきなりなんだまったく。だいたいね、ワシの家にはただの酒なんて置いてないよ。

んなバカな! それじゃ俺が小浜んとこの奥さんに嘘つかれたっていうんかい!?

違う違う。いいか、よく聞けよ。

ワシんとこにあるのは灘(なだ)の酒だ。関西の方の知り合いが送ってきてくれて、つい今朝方届いたんだ。

お前、『灘』と『ただ』を聞き間違えたんだよ。

灘!? ああああ、兵庫の!ああ!

なだかぁ・・・・。

なんだぁ・・・・。

まあただも灘もそう変わらないじゃないか。ケチケチせずに一杯ぐらい飲ませろ!

どうせ医者から高血圧で酒は控えるよう言われてんだろ? 飲まずにいるんじゃせっかくの灘の酒がもったいない! 早くよこせ灘の酒!

あのな、そんなものの言い方されて『じゃあはい、一杯どうぞ。』なんて飲ませると思うか?

なんだい、飲ませてくれないのか?

そりゃそうだ。お前さん、人から何かおごって貰おうってんだったら、世辞の1つくらい言えなきゃダメだ。

世辞? そりゃあれか、挽き肉の燻製かい?

そりゃソーセージだ。世辞って言うのはな、いわゆる1つの人を褒めることだよ。

褒める? 何でまた?

そりゃお前、世辞の1つ2つ言って相手を喜ばせて、向こうの方から『一杯どうだ?』と言わせるように持って行くんだよ。

ああなるほど! さすが熊さん、無駄に長生きしてるだけのことはあるね!

無駄は余計だ、無駄は!

へへっ。で、いつ死ぬの?

やかましい!

でもよ熊さん、褒めるにしたってどう褒めればいいんだい?

・・・・そうだな、例えばしばらく会わない知人に、道でばったり会ったとするだろ。

そんなときお前さんならどう応対する?

『よう、久しぶりだな! 俺はてっきりもう死んだかとおm』

もういい、黙れ。

・・・・えー、そういう時はな、『お久しぶりですね、どちらかへお出かけでしたか?』とこう聞くんだ。

それで先方が『ちょっと仕事で大阪へ』とでも言ってきたら『どおりでお顔の色がお黒くおなりで』と、こう返すんだ。

顔の色が黒いだぁ? 熊さんあんたもボケてきたか? 顔が黒い言われて喜ぶんは、今じゃ絶滅危惧種のガングロギャルぐれぇなもんだぜ?

そこでちょいと一工夫するんだよ。

『それだけ日に焼けてるのも汗水たらして働いてる証拠。家族を養うため会社を繁栄させるために働いた結果のその姿、お疲れ様でございます。さぞ繁盛することでしょう』と。

こうでも言っとけば、『いやいやどうも、よければこの後一杯どう?』と持ちかけられるわけよ。

なるほどね。でもそう都合よくいくかい? もしそれでダメだったらさ、熊さん立て替えてくれるの?

なんでワシがお前さんの酒代を立て替えなきゃならんのだよ。

そういうときはだね、『奥の手』を使うんだよ。

なるほど、『どこかお痒いところはございませんか』ってな具合に

そりゃ『孫の手』な。

いいかい、そういう時はだね、相手の歳を尋ねるんだ。

歳!? 歳なんか聞かれて誰が喜ぶんだい。

大事なのはここからよ。まあ聞きなさい。

『失礼ながら、お歳はおいくつで?』と尋ねる。

先方が45とでもおっしゃったら『45にしちゃお若く見える。どう見ても厄そこそこ』と返すんだ。

百そこそこ!?

厄だよ! や・く!

男の厄年を42と言ってな、45のところを42、3と本当の歳よりいくらか若く言うんだ。

はぁ~、そんなんで喜ぶんかい。

人間、いくつになっても若く見られると嬉しいもんだよ。

熊さん人間じゃねぇけどな!

しょうがないだろ。人手不足なんだから。

でもよ、ちょうどよく45の人に会えばいいよ? 50のに会ったらどうすんだい。

そりゃお前さん、46、7だよ。

ああなるほど。

じゃあ60は?

そりゃお前さん、56、7だよ。

じゃあ70は?

・・・・66、7だよ。

80は?

・・・・76、7だよ。

90は?

・・・・86、7だよ。

100は?

お前今聞く前にちょっと笑っただろ!? だいたい100にもなるって人が道歩いて・・・・

・・・・るんだよなぁ、高齢社会だもんなぁ。

まあその大半はお役所さんの怠慢から招いたゾンb

しばらくお待ちください。

いやけどさ、万が一ってこともあるでしょ?

・・・・まぁ96、7じゃないかい。

じゃあ1,000は?

そんな人間いるか! 居たら会ってみたいわ!

そりゃそーだね!

あっそうだ、そういえばこの前、竹原さんちに赤ちゃんが生まれたんだって!

ほほぅ、めでたい話しじゃないか。

それがさぁ、近所の誼みでってんで、出産祝いで¥10,000も使っちゃってさぁ~。

せっかくだし、一杯ぐらい奢ってもらおうかなと今思いついてさ。

そういうときはどう言えば奢ってもらえるかな、熊さん。

そういう時はだね、赤ん坊を褒める様にその親御さんを褒めるんだ。例えばだな、

『失礼でございますが、このお子さんはあなたのお子さんでございますか。このようなお子さんがおいでになるとはついぞ存じ上げませんでした。

昔から親に似ぬ子は鬼っ子などと申しますが、額の辺り、眉毛の辺はお父様、口元鼻つきはお母様に瓜二つ。

総体を見渡したところは、先年お亡くなりになったお祖父さまに似て、長命の相がございます。

『栴檀は双葉より芳し』『蛇は寸にしてその気を現す』私もこういうお子さんにあやかりたい、あやかりたい』・・・・と。

よくもまぁ顔も見ないでそんなペラペラ言葉が出るね熊さん! あんた人間かい!? あっ熊か。

だから人手不足だって言ってんだろ!

まあいいや。それじゃ早速、試してきまーす!

おいおい、せっかくばあさんが一杯用意してやったっていうのに

誰がばばあだ、この毛むくじゃら! 酒ぶっかけんぞ!

やめてぇ! くせっ毛なのぉ~! 縮んじゃううぅぅぅ!!!

~続く~

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Posted at 2012/10/12 17:39 Viewed 20 times

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古典落語から。知り合いの方がやってた落語が面白かったので、その方のネタも拝借しながら作ってみました。よければお付き合いくださいませ。後編→http://www.kimip.net/play/Gemb1

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