“変わったよ!紗希ちゃん!!”

紗希が我が家に来てから一週間が経った。

最初の頃は失敗ばかりしていて

メイド長に怒られてばかりだった。

……最も、紗希を叱っている時に親父が乱入してくるんだけどな。

それで、お決まりのパターンで親父は撃沈する。

変わらない親父とメイド長をよそに、俺と紗希の関係は日を経つにつれて変わっている。

御主人様……。

どうした?

私は……紗希は……やっぱり駄目なメイドです……。

どうしたよ、話してみな。

紗希は、泣きそうな表情をしている時はメイド長に怒られた時だ。

放置しておくと本当に消えかねないので毎回話を聞く。

あのな、紗希。

……はい。

いいんだよ、何回失敗しても。

大切なのは後悔をする事ではなく、次回どうしたら失敗しないのかを考える事だ。

でも……!私何度も同じ所で失敗してしまって……!

前から思ってたんだけどさ……紗希ってせっかちな部分があるよな?

……言われてみれば。

焦って仕事をしようとするんじゃなくて、ゆっくり落ち着いて仕事をしてみたらどうだ?

別に誰も超スピードでこなせ!!って言わないしな。

……ゆっくり……ですか。

ああ、焦らずゆっくり……冷静にな。

は、はい!!

よし!じゃ、いつものあれをしてやろう!

あ……。

こっちに来いよ、紗希。

……失礼します、御主人様。

紗希の悩みを聞いた後に必ずする事、それは『俺の膝の上で頭を撫でる』事。

紗希は見た目から分かる通り小柄だ。 そして小動物的なオーラを纏っている。

……え?何で頭を撫でるんだって?

可愛いからに決まってるだろ!!

まあ、それはともかくこうしている内に一週間が過ぎて紗希も我が家に慣れてきたんだ。

明日はどんな一日になるか、親父が暴走するかメイド長にいじられるか紗希の頭を撫でるか。

……まさか全部って訳じゃないよな……?

そして次の日。

ふぁ……眠……。

オーマイゴッド!!!!

いきなり何だ!! 朝っぱらから騒がしいな全く!!

息子よ!!あれを見なかったか!?

あれ?あれって何だ?

あれはあれだ!!それ以上でもそれ以下でもない!! なんてこった!!これじゃ我が家は滅亡する!!

だからあれって何だよ!! つーか滅亡ってどういう事だ!そんなに重要な物なのか!?

超重要だ!!あれが無いと我が家は破産する!!

失くしたのか? いつ、どこで、何をしていた時に?

……。

覚えてないぜ!!

キャオラッ!!

ゲハァッ!!

何をする息子よ!! 急に跳び蹴りなんて……愛情表現にも程があるぞ!!

誰が愛情表現で跳び蹴りなんてするか!! つーか自信満々で覚えてない発言すんな!!

だって覚えてないもーん、忘れたもんは仕方ないもーん。

(うぜぇ……もう一発蹴っとくか?)

失礼します。

よう紗希、おはよう。

……はっ!! おはようございます御主人様!! 申し訳ありません!!

どうした、また何か失敗したのか?

あの……御主人様がお目覚めの時に傍に居なくて……。

何だそんな事か。 別に構わないさ、それより自分に割り振られた仕事を優先してくれ。

……かしこまりました御主人様。

うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!! やっぱり見つからん!!!

だ、旦那様!!? どうなされたのですか!?

いや気にしなくていい、というか今近づくと食われるぞ。

た、食べられ……!!

それよりどうした紗希。 何か用があって来たんじゃないのか?

は、はい。 さきほど部屋の清掃を行っていたらこんな物が落ちてました。

これは……箱? 中に何か入っているみたいだな。

っ!!!! それはあああああぁぁぁぁ!!!

うわっと!! 何だ親父急に入ってくるな!!!

み、見つかった……。

は?

遂に見つかったぞおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!

あ、失くし物ってその箱だったのか? 失くすと我が家が滅亡するっていう……。

えぇ!?滅亡してしまうのですか!?

しないって!! というかそこに反応すんな!!

そんな……嫌です!! せっかく……せっかく御主人様と出会えたのに……!!

いやだからしないって。 おーい紗希、聞こえてるか?

また……また捨てられるなんて……嫌……です……。

("また"……だって?という事は紗希は……)

紗希。

……っ!……御主人様……。

落ち着け、俺がついている。 何も心配する事はない。

は、恥ずかしいです……御主人様……。

何を今更。 いつもしてる事じゃないか。 それとも嫌だったか?

いいえ!いいえ! そんな事はありません!!

そんなに否定しなくても大丈夫だって。 紗希が望むだけいつまでもこうしててやる。

……御主人……様。

(やっぱり可愛いなコイツは……)

(捨てられるのは嫌……紗希は我が家に来る前はどこに居たんだ……?)

(どうもトラウマになってるみたいだな……あまり詮索はしないようにしておくか)

あ、あの……御主人様……。

ん?ああ悪い、手を止めてたな。

あ……はうぅ……。

(幸せそうな表情しやがって、ここまで頭を撫でられるのが好きだとはな……)

……青春、これぞ青春!! よきかな若者達よ!!

おい馬鹿! 急に大声出すな!!

は……あぅ……。

ほら!紗希が怯えちゃったじゃないか!

息子よ!今ナチュラルに馬鹿と言ったな!! 父さんは悲しいぞ!!馬鹿じゃない!

じゃあ何だよ?

完全無欠のうつけ者だ!!

もっと酷くなってるじゃねーか!! いいのかそれで!!

それは置いといて……紗希、よくやった。

え……は、はい旦那さま。

お前のおかげで我が家の危機は乗り越えられた、礼を言うぞ。

いえ、そんな……。

(……ん?)

それにしてもよく見つけたな、落ちていたと言っていたが……どこに落ちていたんだ?

メイド長のお部屋に。

な、何だってええええええええぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇ!!!!!!!

だから急に大声だすな!! 驚くだろうが!!

まずい!まずいぞ! メイド長に知られていたら俺の計画がパーだ!!

やっぱりメイド長絡みだったか……。

お呼びになりました?

メイド長!?

お呼びとあればいつでもどこでも駆けつけますわ。

いや俺は呼んでないけどな……呼んでいたのは親父だ。

息子よ!俺を裏切るのか!?

何俺を共犯者に仕立てようとしてるんだ!! 俺は無関係だ!!

あらあら御主人様、何でも申しつけ下さい。

……その箱の中身についてでしょうか?

……まさか中を見て……。

失礼ながらお調べさせて頂きましたわ。

メイド長おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!

またこの流れか。 慣れてしまっている自分が恐ろしい……。

それにしても親父の奴……メイド長に何を渡そうとしたんだ?

新しい調理器具ですよ。

え?調理器具?

はい、今まで使用してた器具で壊れてしまった物があって困っていたのですよ。

なるほどねぇ……伊達にメイド長の事を常に見ていないって訳か。

はい、御主人様は私が困っている時に必ず問題を解決する手段をご用意してくださるのです。

……必ず、です。

……親父が皆に慕われている理由が分かった気がするよ。

御主人様はいつもお坊ちゃまの事を見ておられます。 ですからあまり手荒な真似はしないでくださいね。

……ああ、分かってるつもりだ。

まあ、私の場合は精神にダイレクトアタックしますが。

えげつねぇ!!

さて、お食事にしましょう。 ……私と二人っきりで。

あーそれは駄目だ。 親父も居るし紗希も居る。

……それに皆で食った方が美味いだろ?

……。

お、おいメイド長?

……。

……ど、どうした紗希。 急に服の裾を掴んだりして。

……。

……。

(……女って怖いなぁ……)

(というか昨日思ってたことが全部起きるとは……何だ?予知能力でもあるのか?)

おーい二人とも。 親父を連れて食堂に行くぞ。

はい!!

お、おおぅ。張り切ってるな。

(……やるわね紗希、お坊ちゃまのお世話係という地位を上手く利用しているわ)

(……だけど、私もそう簡単にお坊ちゃまを渡す訳にはいかないわよ)

(御主人様を取らないで下さい!)

(……全部聞こえてるんだが)

(……それにしても我が家のメイドはレベルが高いな、俺に釣り合うもんじゃなかろうに)

~続く~

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Posted at 2012/10/22 01:01 Viewed 19 times

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紗希が来てから一週間が経った。始めは失敗ばかりしていたが徐々に慣れ始めてきている。そんなある日、父が大切な物を失くしてしまった様で……。「変わったよ!紗希ちゃん!!」

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