この街は雑音であふれている。店内から漏れ出す音楽は、吐き気がするほど最悪なものばかりだ。
俺は、音楽に飢えていた。 jazz? hip hop? R&B? BL?…
なんだかよく分からねぇが、俺が求めてるのはそんなもんじゃねぇ。
俺が求めてるのは、そう――
本当の音楽だ
気づいたら俺は、タージ・マハルへと来ていた。身体が自然とここへ吸い寄せられていたのだ。
ここになら…本当の音楽があるかもしれない。
そして俺は、一人の男に出会った。
こいつだ…
一目見た瞬間、とんでもねぇ化け物だって気付いたぜ。 そして奴も俺に気付いたみたいだ。
お互いジリジリと間合いを詰めながら対峙している。 探り合いだ…
長い沈黙を破ったのは俺だ。 俺は…俺のすべてを奴へとぶつけた。
ドレミレド～♪ ドレミレド～♪ さぁ…どうくる？
♯ファーーーーーーーーーー！
！！ なんて型破りな男なんだ… でもやっぱりこいつはすげぇ。
まさか♯ファを奏でるとは参ったぜ。俺はギターのトムだ。 あんた、名前は？
ふ、あんたの混じりっ気のないドレミも最高だったぜ。俺は口笛のジョニーだ。よろしく。
こうして俺たちは打ち解けあった。
そしてジョニーは、俺たちのバンドのヴォーカル兼口笛を担当した。
そういや俺たちのバンド…と言ったが、紹介がまだだったな。 こいつがドラムのTETSUだ。
そしてベースの… あれ？JONはどこ行ったんだ？
なんか…死んだ。
そうか…。 俺たちはいきなり壁にぶち当たった。しかし――
ベースなら一人心当たりがある。 そいつを呼んでみよう。
さすがジョニー しびれるぜ。
３０分後、そいつがやって来た。 俺は驚愕したぜ。
ういっす。
まさかあの伝説のベース、琵琶法師が来るなんてよ。
クッククク。笑いが止まらねぇ。こいつらとなら…こいつらとなら武道館へ行ける！そう確信した。
ところでよ、このバンドは一体何をするバンドなんだ？
琵琶のケツにあるジャックとチューナーをなんかよく分かんねぇコードで繋ぎ
ポロンポローンとチューニングしながら俺に聞いてきた。
そういえば、俺もまだ何をするバンドか聞かされてなかったな。 ジャズバンドか？
いいや、ロックバンドだ！
おいおい… まさかロックとは…
分かってんのか？ 下手すりゃ死ぬぞ？
ああ、死んでもかまわねぇよ。 でもな、天下とるなら…武道館へ行くならロックしかねぇんだ！
無理にとは言わねぇが…お前たちの力を貸して欲しい！ 頼む！俺の夢を叶えさせてくれ！
うむ！ 貴様の心意気しかと見届けたぞ。この琵琶法師、全力で力を貸そう。
ふん、ばかやろうが。誰もやらねーとは言ってねぇよ。それにな、俺の夢じゃねーだろ？
俺たちの夢だ！
お前ら…
パパーーーン！ タタタタタタターン！ ドラムのTETSUが小粋に奏でる。
さぁ、バンド結成パーリィだ。
俺たちは、朝まで狂ったかのように自分たちの音楽をぶつけあった。
最高にホットでクールなパーリィだぜ。
こうして、バカな男たちのロックバンドが結成した。
～数週間後～ 俺たちは野外ゲリラライブを決行する。
ヒューイ♪ ポローン タタタターン
どうやらみんなチューニングが終わったようだ。 戦いが今始まる…。
お前ら！！準備はいいか！？ このライブの成功が武道館へと繋がっているんだからな！！
「おおおおう！！！！」 それじゃ、行くぜ！！
ワン、ツー、ワンツー、 スリー、フォー！
きみがーよーは ヒュイヒュイ♪ タタンタンタターン！
くぅ…しびれるぜ。ジョニーがたぶん８ビートぐれぇの速さで君が代を歌い、口笛を吹く。それに合わせドラムのTETSUが魅せる。
ちよにーーやちよに ポロロロロローン！
ここで存在感を見せる琵琶法師。 弦を震わす巧みなテクで観衆は彼にくぎ付けだ。
さざれ いしの キュイイイイーーン！
俺も負けじと全身全霊をかけて弾いた。クソ、指が悲鳴をあげている。だが、不思議と心地いい。
いわおと な りて タッタタターン♪ ポロローン♪キュイイイイン♪
俺たちのヴォルテージが最高潮へ達した。おいおい…すげぇよ。俺たち、ロックしてるじゃん。
こ け の むーすーまーーで ヒュイ♪ポローン♪キュイーン♪ タタッタッタターン…！
ドサァ 曲が終わるのと同時に、俺たちは崩れ落ちた。
すべて出し切った。 自然と涙が頬を伝うのを感じる。
そして一息つき、ようやく俺たちは気づいたんだ――
――大歓声に包まれていることに！
こうして、俺たちの野外ゲリラライブは大成功に終わった。
本当、最高にバカな男たちのロックバンドだが…俺が求めていた本当の音楽がそこにはあった。
この先どんな困難が待ち受けようとも、こいつらとなら乗り越えられるだろう。
さぁ、行こうぜ！ 武道館の舞台へ！
ククク… まだ魂が震えてやがる。こんなロックバンドに出会ったのは初めてだぜ。
あ、もしもし社長ですか？ 面白いロックバンドを見つけたんですが…どうですかねぇ？
ー完ー ご覧いただきありがとうございました。
