“【11月第四週】お仕事だよ!紗希ちゃん!”

その日は珍しく、朝起きた時紗希の姿が無かった。

いつもなら起きた時必ず居るはずなんだが……。

まあ仕事が忙しいから居ない事にしておこう。

そういえば紗希って普段どんな仕事してるか知らないんだよなぁ……。 丁度いい機会だし、見てみるとするか。

ん……しょ……っと。

(お、丁度いい所に紗希が居たな。 ……今は窓拭きか?)

うぅ……冷たい……。

(あー、水の中に雑巾突っ込んでるもんな……そりゃ冷たいな。後であかぎれ予防にハンドクリームでも渡しておくか?)

……よし!出来た!!

(どうやら終わったみたいだな……)

(……ってちょっと待て、まさかこの場所全部の窓を一人で拭いたのか?)

さーきちゃーん!!

きゃっ!!

あふぅ~、やっぱり紗希ちゃんいい匂いがする~。

や、止めて……苦しいから……。

あ、ごめんごめん! ちょっと強く抱きしめ過ぎたね!!

もう……歩夢ちゃんったら……。 あまり抱き付かないでよ。

えー?だって紗希ちゃんを抱きしめると気持ちいいんだもん! 何と言うかー……抱き枕みたいな感じ?

私は抱き枕じゃありません! 私じゃなくて抱き枕でいいでしょ!!

きゃーん!ビシッと決めてる紗希ちゃん可愛いよー!! お持ち帰りー!!

ちょ……や、止め……御主人様ー!!助けてくださーい!!

(……な、何というパワフルな奴だ……。というかあんな奴居たかな……?)

(助けを求められてるが……このまま出て行くのはちょっとマズイ気がする……)

(……げっ!!あれは!!)

呼んだか子猫ちゃん達よ!!

えぇ!?だ、旦那様!?

だ、旦那様……!

(お、親父……まだその呼び名を使ってたのか……)

旦那様ー、珍しいですねーこんな所で会うなんて。

あ、歩夢ちゃん……! 失礼だよ……!

何を言う紗希!!

は、はい!?

俺はな……堅苦しい事が嫌いなんだ……。

は、はぁ……。

つまりだな……。

敬語使われると距離がある気がして嫌なんだよおおおおおぉおぉぉぉぉぉ!!!

(なにいいいいいぃぃぃぃぃ!? そして馬鹿な!?)

俺は悲しい!悲しいぞ紗希!! どうしたら俺に心を開いてくれるんだあああああああぁぁぁぁぁ!!!

え!?そ、それはその……。

(何聞いてんだあの親父は!! 紗希だけじゃ親父の相手は無理だ!!)

あらあら、賑やかですね。

はっ!メ、メイド長!!

(出たなー、神出鬼没のお仕置きメイド長!)

おおメイド長じゃないか!! もしかして俺に会いに来てくれたのか!!?

ええまあ……丁度あそこにお坊ちゃまもいらしてるので。

え!?ご、御主人様が!?

(んな!?一瞬でばれた!?)

……。

(……な、何期待した様な目をしてるんだ紗希よ。……仕方ない、出るか)

メイド長……お前の目には透視能力でもついてるのか?

ご、御主人様……!!

よう紗希、毎日お仕事ご苦労さん。

え……ま、まさか見てらしたのですか!?

まぁ……ちょっとな。

……。

さ、紗希?

あううううぅぅぅぅぅー!!!

お、おおおおぉぉぉぉぉい!!?? 何処へ行くんだ紗希!!

待てい息子よ!!

何だよ親父!! 構ってる暇は無いんだって!!

ここを通りたければメイド長を俺によこせ!!さもなくば……。

ウルセウス!!

エン!!

それ前も言ってたじゃねーか!! 遊んでる暇は無いんだよ!!

……。

あら歩夢、どうしたの? 固まっちゃって。

いえ……紗希ちゃんの御主人様を始めて見たなぁ……って思って。

あら、見ちゃったのね……。 意図的に会わせない様にしてたのに……。

むっ!それどういう事ですかー?

だって……。

これ以上お坊ちゃまを巡るライバルは増やしたくありませんもの……。

(え!?マジで言ってんのこの人!?)

……フ……フフフ……。

……メイド長、旦那様が蹴られたのにも関わらず笑っているのですが。

良くある事だから気にしなくていいわよ。 ……この後お決まりのパターンだから。

え?それどういう意味ですか?

フハハハハハハハハ!! 息子よ!!通ったな!!それは俺が言った事を受け入れた事実!!

(な、何言ってんのこの人!?)

これでメイド長は名実と共に俺のものとなるわけだ!!

(い、いやちょ……え、ええええぇぇぇ!?)

というわけだメイド長……。

今ここで俺に対しての永遠の愛を宣言し、抱きついて来るんだ!!

うん、それ無理。

メイド長おおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!

え、何この茶番。

はぁ……疲れた。

(というか自分の御主人様なのに容赦ないなこの人……)

それはそうと……歩夢?

え?何ですかメイド長。

……貴女、部屋の掃除は終わったの?

げっ!!ヤバ……!!

へぇ……?

い、いや今のはですね!言葉の綾でして……。

歩夢ーーーーーーーーっ!!!

わああああああぁぁぁん!!! ごめんなさいいいいいぃぃぃぃ!!!

メイド長にこってり絞られた歩夢と、戻ってきた紗希は仕事を再開した。

~買出し~

ほぇ~……! 新作のスカート……出てたんだぁ……。

ちょっと歩夢ちゃん……遊んでないで荷物持ってよぉ……。

んー、じゃあ今日紗希ちゃんが私の抱き枕になってくれたら持って上げる。

歩夢ちゃんの馬鹿!!嫌い!!

わーん!!嘘だよ!! ごめんなさーい!!

全くもう……。 ほら、半分持って。

……紗希ちゃーん!!

だ、だから抱き付かないでよ!!

~部屋掃除 再開ver~

うぇ~、窓拭き面倒くさい~。

へぇ……。

じょ、冗談です!! 誠心誠意、喜んで窓拭きをやらせて頂きます!!

(……御主人様に会いたいなぁ……)

紗希!手が止まってますわよ!!

ひゃ!! も、申し訳ありません!!

ほらほら、集中しないから怒られるんだよ?

貴女が言える立場ですか!!

も、申し訳ありません!!

~旦那様のお相手~

……いや、ねぇ……これはちょっと……。

メイド長に頼まれた物を持って来ればいいだけだよ?

あ、そうなの? じゃあ楽だね。

いや……楽じゃないの……。

へ?

メイド長!!

何でしょうか御主人様。

駅前にあるケーキが食べたいぞ!!

あらあら、ではご用意致しますので少々お待ち下さい。

……なーんか嫌な予感がするんですけどー。

歩夢ちゃんの予想通りだよ……。

歩夢、紗希。

駅前のケーキ屋さんまでちょっと行って来て頂戴。 10分以内ね。

じゅ、10分で!? いくらなんでもそれは無理ですよ!! ここから駅前まで15分はかかりますよ!?

大丈夫よ。 御主人様の車を使えば5分で着くわ。

え!?それはちょっと……。

大丈夫だよ歩夢ちゃん。

え?

もう買ってきたもの。

ええええええぇぇぇ!!? ちょ、どういう事!?

いや買ってきたというより既にあったのを持ってきただけだけど……。

既に…?

ま、まさか!!

さっき買出しに行ってた時、こっそりと自分だけ買ってたあのケーキをね。しかもメイド長から渡されたお金で。

げっ!! ば、ばれてたのね……。

……歩夢?

ひっ!は、はい!!

……後でお仕置きね。

ゲッ!!

(悪銭身に付かずって事かな……?)

(無視か!?無視されてるのか俺!? 答えてくれメイド長おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!)

~食事~

では今日もこの世の全ての物に対して感謝を込めて……頂きます!!

頂きます。

はい、召し上がれ。

(……御主人様……)

(あらまー、完全に恋する少女になってるじゃん……。紗希ちゃん、その恋は多分実らないと思うよ?)

(えぇ!?な、何を言っているの歩夢ちゃん!!)

(だって紗希ちゃんの御主人様って旦那様の息子なんでしょ?私達みたいなメイドが相手にされるはずないでしょ?)

(……そう……だけど……)

(まぁ紗希ちゃん次第だと思うけどね)

(え?)

(紗希ちゃんの御主人様に『好きだ!』って思わせればいいのよ。そうすれば両想いになるでしょ?)

(あ……う……)

……二人とも、何をしているの?

っ!!

(別にそんな目くじら立てる程じゃ無かろうに……、後で部屋に来るな絶対)

~お風呂~

うぇ~、晩御飯抜きだよぉ~。

仕方ないよ……私達が悪かったんだもの。

それはそうだけどさぁ……。

……確かにお腹は空いたけど……今日は我慢しよ?

あーうー……。

(全くもう……この子達は……)

メイド長ー。

ええ、分かってますお坊ちゃま。 ……あの子達の御飯、ちゃんと用意してあります。

なら丁度いい、俺の部屋に持っていっていいか?

……どういう事ですか?

これも部下との交流って奴さ。

~食事 IN 御主人様と一緒~

んじゃ、頂きます。

頂きます……。

いただきまーす!!

ゆっくり食っていけよ? 俺の前だからって遠慮する必要は無いからな。

は、はい……。

紗希ちゃんの御主人様太っ腹ー!! 私の御主人様になって!

歩夢ちゃん!!

じょ、ジョークですよ?

(……紗希が本気で怒る所、初めて見た……)

……はっ!!

……どうした紗希?

……。

うああああああああぁぁぁん!!!!

さ、紗希いいいいいぃぃぃ!!??

(……これ、私のせいじゃないよね?)

そして……。

~就寝前~

あー、ほら紗希。 そんなに落ち込むなって。

……あぅ……。

ほら、紗希。

あ……。

俺は嬉しいんだぜ?普段見ることが無い紗希の意外な一面を見ることが出来たからな。

そ、それは……あまり御主人様には……。

いやいや、活き活きとしてたぜ? あれが本当の紗希なんだろ? いいじゃないか、新しい魅力発見って奴か?

あ……う……。

今日もお疲れ、紗希。

はい……ありがとうございます……。

……と、忘れる所だった。 紗希、普段頑張っているお前にプレゼントだ。

え……これは……ハンドクリーム?

水仕事辛いだろ?せめてあかぎれの対策には……って思ってさ。

……。

あ、ありがとうございます……紗希は……幸せ者です。

いや、その台詞はまだ早い。

え?

俺からのもう一つのプレゼントだ。

……あ……。

今日はよく頑張ったな、紗希。 もう一つのプレゼントは俺の抱擁&頭を撫でる、だ。

……あ……あぁ……。

さ、紗希?どうした?

御主人様!!

お、おいおい……そんな強く抱きしめなくても。

御主人様ぁ……!

……ま、いっか。

いつもありがとな、紗希。

私こそ……私こそ……御主人様で居てくれて……ありがとうございます……!

(……ん?)

御主人様の傍が……わた……しのいば……しょ……。

……!!

……スー……スー……。

……紗希……。

(一体コイツはどんな過去を歩んできたというんだ?こんな考え方……普通だったらありえない)

(それとなく親父かメイド長に聞いてみるか?……いや、多分教えてくれなさそうだな)

(……紗希が語るまで待つしか……ないのか?)

(……今日は寝るとするか)

……紗希の居場所は俺……それでいいんだ……。

……ずっと……お傍に……。

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Posted at 2012/11/19 02:20 Viewed 22 times

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珍しく紗希を見かけない。そういえばどんな仕事をしているのか分からないので様子を見てみようとする。ただメイド長や仕事仲間が……。「お仕事だよ!紗希ちゃん!」

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