私、近いうちに死ぬんだ。
…自殺するの?
うん、まぁそんな感じ。
…死んじゃ、ダメだ。
だってこれは運命だもの、覆らない。
…君を放っては、おけない。
私たち、そんな出会いだったよね。
いつしか私たちは互いに愛し合うようになり、片時も離れずにずっとそばにいたよね。
私はまだ、あなたの事が好きだよ。
あなたもきっと、まだ私のことが好きだよね。きっと今も私のこと、必死に探してる。
私はね、聖夜に死ぬ運命なんだ。
これは雪国に生まれ落ちた瞬間から、もう決まっていたことなんだ。
雪国に生まれ落ちた女の子は、十四の聖夜に雪になる。
大きな鉄槌で、この身体を打ち砕かれるの。
散り散りになった肉片は雪と化し、あなたの住む人間界に降り注ぐの。
無限の愛が、有限の愛に変わった時、 一層あなたを愛おしく思えた。
この命が尽きる最期の一秒まで、悔いの残らないように、あなたを愛せるだけ愛そう。
この燃えるような思いで、自分自身を溶かしてしまうぐらいに。
雪国の文献によるとね、人間界も雪国もさほど変わらないんだって。
かつて人間界に蔓延していた温もりは、とうの昔に消え失せてしまっていた。
私が人間界に来てから、出会う人間全てが冷め切っていて、まるで同種のように思えた。
だけどあなたは違った。
まだ温もりを持っていた絶滅危惧種だ。
あなたに触れたから、温もりを知った。
あなたが温もりを教えてくれたから、私は愛することができた。
温もりって、幸せなんだね。
幸せって、こんな気持ちなんだね。
あなたと出会わなければ、この幸せで愛おしい気持ちを知らないまま死んでいく所だったんだよ。
ありがとう。
そして、バイバイ。
今夜は聖夜だね。
雪がぱらついてきたら、それは私なんだよ。
あなたの街にも、私が届くといいな。
雪やこんこ あられやこんこ
…クリスマスが近づく度に、毎年思うのだ。
聖夜に降る雪は、…嫌いだ。
その淡い光の粒は、彼女たちの最期のともし火のようで。
その雨混じりの雪は、逆らえない運命に流した、彼女たちの最期の涙のようで。