“金曜日の放課後に”

俺は、黒川先輩が好きだ。

黒川さん、俺と付き合ってくれませんか?

ごめんなさい…。今彼氏はちょっと…。

黒川さんは、ミスキャンパスに選ばれるほど美人なのである。

だから、毎日男たちに「好きだ」「付き合ってくれ」と愛の告白をされているのである。

でも彼女は決まって、「今は彼氏いらない」とお断りするのである。

俺が告っても、玉砕するだけである…。

そんなとある金曜日の放課後。

あれ、あそこにいるのは…、黒川さん?

駅前の噴水で一体何をしているのだろう? 待ち合わせだろうか?

もしかして…、彼氏と?

そりゃ、そうだよな…。だってあんな美人だもの。彼氏の一人や二人ぐらいいるさ…。

でも黒川さんの彼氏ってどんな人なのか、ちょっと気になるな。やっぱ背が高くてイケメンなのかな?

俺は、彼女に悪いと思いながらも、陰からイケメン彼氏がやってくるのを待っていた。

その後、2時間も待ったが彼氏は一向に現れず、黒川さんはとぼとぼと帰っていったのだ。

ひどい彼氏だ。あの美人な黒川さんを何時間も待たせた挙句、やって来ないなんて…。

俺なら絶対待たせない。約束の1時間前からでも待ってやる!

そして、その翌週の金曜日も、

次の金曜日も。

その次の金曜日も、彼女はやはりあの駅前の噴水で誰かを待っていたのだ。

彼女の不可解な行動と、そして全然来ない彼氏に対してのイライラとモヤモヤが積もりに積もって、ついに…。

勇気を振り絞って、黒川さんに訊ねてみたのだ。

日下部くん、どうしたんですか?

黒川さん、いつも誰待っているのかなーって思って。

もしかして、彼氏さん…ですか?

だとしたら、その彼氏とは別れた方がいいですよ! 黒川さんを何時間も置き去りにして待ち合わせ場所に来ないなんて、最悪ですよ!

私には彼氏なんていませんよ?

じゃあ、誰を待っているんですか?!

んん~。日下部くんは、誰だと思う?

はぐらかさないで下さいよ!

日下部くん、かもね。

俺、黒川さんとそんな約束しましたっけ?

冗談よ

それじゃ。

どうやら黒川さんには彼氏はいないようで、俺は安心した。

じゃあ、毎週あの場所で、一体誰を待っているというのだ?

俺にはわからない…。

その週の金曜日、黒川さんはいつもの駅前の噴水には現れなかった。

その次の週も、その次の週も…。

彼女は誰かを待つことを諦めたのだろうか…。

そしてしばらくして、久しぶりに中学の同級生と飲み明かした。

そういや、お前卒業式のアレ、決着ついたの?

卒業式のアレ?

何だ、覚えてないのか? ほら、俺たち卒業式終わってからさ、サッカーの試合見に行こうってなって、急いで下校した時あったじゃんか。そん時に…。

あの…、日下部くん…。

私、あなたのことが好きです。良かったら付き合ってください。

え…、えっと…。

おいー、日下部ー! 早くしないと、サッカーの試合始まるだろー!

あぁ、今行くからー!

…ごめん、俺急いでるんだわ。

あの! 返事は…?

返事…? え…、えーーと……。

日下部ーー! もう、置いてくぞー!

ちょ、ちょっと待ってよ!

日下部くん!

ごめん、もうホントすぐ行かなきゃいけない用事あるから…、返事は…、

『金曜日の放課後、駅前の噴水で。』

…どうした、日下部。

何で俺…、こんな大事な約束忘れてしまってたんだ…!

確かそいつ、中学の頃はパッとしない奴だったよなー。高校別々になったんだっけか?

今思えばお前あの時がモテ期だったんじゃねえか? もったいねえ。彼女、今何やってんだろうなー?

俺と同じ大学にいるよ。

マジで!? 何その偶然? だったら今からでも告…、

いや、もう4年も経つもんなー。もうお前のこと好きじゃねえかも。

…さぁ、どうだろうな。

ひどいのは、俺の方じゃん…!

俺はあの卒業式の日、サッカーの試合観戦で、あの告白のことを忘れていたんだ。

でも彼女は俺が忘れているとも知らず、金曜日の放課後に、駅前の噴水で待っていた。

当然俺は来ない。すると彼女は、

そうだ…、金曜日って言っても、今週の金曜日だとは言ってない。

それから毎週金曜日の放課後になると、駅前の噴水で俺のことを待つようになったんだ。

俺から告白の返事を聞くために。4年もの間。

そうですよね?

黒川さん!!

日下部くん、お話って何ですか?

ダメもとだったけど、まさか本当に来てくれるとは思いませんでした。

好きです。

こんな僕で良ければ、お付き合いさせて下さい。

……。

……。

ごめんなさい。

そりゃそうだよな…、何年も返事渋らせて、挙句の果てには待ち合わせの事自体忘れていた男だぜ。そんな俺が黒川さんなんかと…、

すみません。こんな下らないことに時間割いていただいてありがとうございます。それじゃ…。

グイッ。

…、黒川さん?

下らなくなんかないです。

待っているこの時間が、凄く楽しかったんです。

付き合ったら日下部くんと何しようかなとか、そういうの考えてたらどんどん好きになっていって…。

で、やっと日下部くんから良いお返事いただけて、今とっても幸せです。

じゃあ俺たちってもう…、好き同士…、彼氏彼女ってこと…なんですかね?

確認しないで下さい! 顔がにやけちゃう…。

…ふぅ。

長い間、待たせてごめんなさい。

…、いいえ。

私も今来たところですから!

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Posted at 2013/02/05 17:26 Viewed 14 times

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100ページに抑えようとすると色々と回収できん。

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