“【11月第三週】菊”

もう晩ご飯いいの?

うん、食欲なくて。それに、ちょっとやることあるから

そう言って私は居間を出た。声が掠れてないか、震えてないか、ちゃんと困った笑顔を浮かべられたか自信が無い。

うん……知ってる。知ってた。知ってるつもりだった

それでも辛い。

描かなきゃ。とりあえず、描きあげないと

私には得意なものが殆ど無い。好きで描いている絵だって、美大にいける実力は無いし、今描いてるのも美術部で文化祭に飾るから。何かのコンクールを目指してるわけでもない。

こんな絵、きっと彼には見てもらえない

呟くと悲しくなる。知ってる。見てもらえない。

彼は何でも出来た。

優しくて、運動が得意で、頭が良くて明るくて。私とは正反対。

だから、運動会でクラスのお荷物だった私に優しくしてくれただけ。大丈夫?って手を貸してくれただけ。

息を切らしながら見上げたその笑顔が、太陽と重なって眩しくみえた。大きな大輪の花の様に素敵だと思った。

えっと、花びらの形は……

資料の写真を見る。何故か滲んでみえた。

好き……です。あの、付き合って、欲しいなって……急に、ごめんなさいですけど……その……

ごめん。付き合ってる子がいるんだ

知ってる。

でも、言いたかった。だから私は言った。

辛い、苦しい。でも、この絵は描きあげたい。

大した私ではないけれど、彼がくれた気持ちを形にしたいと思って描き始めた絵だから。この絵だけは描きあげたい。

スポーツが得意な彼の横では笑っていられなかった、私だけど。この花に込めた気持ちは嘘じゃないから。だから、描きあげなきゃいけない。

そんな私を邪魔する涙が、今は辛かった。

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Posted at 2012/11/11 02:39 Viewed 16 times

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花言葉は、わずかな愛。破れた恋。

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