“魔王を倒すために奮闘するRPGキャラの心情なんてこんなもん”

まおう ルシファーのターン!

まおう ルシファーはじゅもんをとなえた!

じごくのごうかが パーティをおそう!

けんし シルヴァに 138のダメージ!

けんし シルヴァはしんでしまった!

パーティーはぜんめつした・・・

…………

……だァーーッ!! また全滅した!!

なんで最後まで全体攻撃なんだよ…… オーバーキル大好きなのかよ畜生魔王……

レベル上げするの面倒くさいから、武器変えたりジョブチェンジさせたりしながら挑戦してたけど、もう潮時かな……

諦めてレベル上げに専念しよう……よし。

…………

……あ、あれ? なんでボタン押しても画面が変わらないんだ?

バグっちゃったのかな…… ったく、リセットするか……

よいしょっと……ってあれ、ゲームオーバーの文字が消えてる? まだリセットしてないぞ?

ど、どうなってるんだ?

…………

……

グハァッ!

(な、なんだ!?  突然画面にキャラクターが!)

ちょっ、大丈夫っすかシルヴァさん!

あぁ、チクショー…… お前らは良いよな、すぐにHP0になるからゆっくり休めて……

こちとら火あぶりにされたばっかりだってのに……

しょうがないっすよ。 プレイヤーが気に入ってる分、シルヴァさんだけ妙にレベル高いから。

名前からして、プレイヤーの熱の入りっぷりが違いますしね。

だったらジョブくらい名前に合うもので統一してくれよ……

元はレイピア持った西洋の騎士だったのに、なんで行き着いた先が純和風のサムライなんだよ……

これで「シルヴァ」を名乗れとかいうんだぜ? 町で名前名乗るたびに相手にクスクス笑われるのはもううんざりだよ……

シルヴァさんは、まだ格好良い名前を貰ってるから良いっすけどね。

アタシは初登場時のジョブが魔法使いだからって、「マジョ」なんて安直な名前付けられたんすよ?

しかも今は魔法使いじゃなくてケモミミ付けた使い魔になってるし。 なんで格下にジョブチェンジしちゃうんすか。

まあ、俺達は元のジョブの名残があるだけまだ良い。 それよりも手酷いジョブチェンジをさせられた奴がいるからな……

なあ、「タロウ」。

…………

格闘家だったお前が、まさかパンダにジョブチェンジされるなんて…… さすがに俺も、そこまでやるかと思ったな。

この姿形で「タロウ」とか…… オラはペットか何かかよ。

なんで立ち絵に「だー」とか書いてあるんだよ。 緊張感あるシーンでも締まんねぇよこれじゃ。

これ……プレイヤーは勝算があってジョブチェンジさせたんすかね?

アタシのステータス、「あいくるしさ」だけ上がって「まほう」やその他もろもろ下がってるんすけど。

オラも「あいくるしさ」は上がったけど、「すばやさ」ががっつり下がったな。……ていうより、単に体毛がもこもこしてて動きにくいんだよ。

あ、草食志向になったんで食費も下がったかもなー。

うまいこと言ったつもりっすか。

……で、戦闘に関してのスキルの向上が見当たらないんだが? 結局「あいくるしさ」ばっかじゃねえか。

あれっすか、キモオタプレイヤーって奴すか。 コテコテのRPGにまでそういう要素を求めないで欲しいっす。

(ええー……  なんか、ゲームの中のキャラクターにすごいディスられてるんだけど。)

(しょうがないだろ!?  魔王に勝てなさ過ぎて、ちょっとヤケになってたんだよ!)

勝てないの分かりきってるのに、負けるたびに叫び出したりするんだよな……

で、妹に壁ドン喰らうと。

(なんで知ってんだよおおお!?)

……ところで。

もう一人、顔が見えない奴がいるんだが。

そこにいるっすよ?

…………

……おいオッサン。早く中から出てこい。

…………

…………

ドカッ!

……う、うわァーーッ!! もう焼かれたくない死にたくない嫌だよォーーッ!!

……おい、オッサン。

ごめんなさいごめんなさいはるばるこんな所まで来たけども実はワシは魔王討伐なんて何の興味も……ん?

おお、シルヴァじゃないか。 戦闘はもう終わったのか?

ボカッ!

あいたーーーーッ!!

しっかりしろい! 主人公がそんな体たらくでどうすんだ!

え、あれ!? ワシって主人公だっけ!? ちょっち忘れてた!

(僕もちょっち忘れてた!!)

「オッサン」なんて名前だから主人公らしさも出てこないんすよね。

まあ、こんな年食ったキャラをRPGの主人公にする制作者側にも責任はあると思いますが。

(もの凄いメタ発言なんだけど。  本当に元からプログラムされてるセリフなのこれ!?)

シルヴァ以外は、プレイヤーはかなり投げやりに名前を付けてるよなー。

投げやりと見せかけて、ちょっとクスリと来るような名前を頑張って狙ってる……なんて可能性も。

(なんでそんなことまで推察できるんだよ!?  大体当たってるよコンチクショウ!)

そして披露する相手も無く、1人でニヤニヤしてる訳っすねー……プププ。

(余計なお世話だあああ!!)

とにかく、このままじゃ魔王に勝てないのは明らかだ。

ジョブや名前云々文句を言いたいのは分かるが、やはり圧倒的に鍛練が足りない。

「レベル上げ」じゃなく「鍛練」って言うあたり、シルヴァさんは隅々まで配慮が行き届いてるっすね。

(お前が一番危ないんだよ!  メタ的に。)

ここまでの魔王の城の道中、ないし近場のダンジョンで鍛え直すのが得策だな。

たりぃ。

あーすいませんたるくないたるくない! だから峰打ちはやめて痛いし怖いから!!

たるいとか、主人公が言うセリフじゃないっすね、それ。

(うん、僕が言うセリフだからね?  それ。)

早いとこ己を鍛え上げて、もう一度魔王を倒しにいくぞ。

……あー、ちょっとそれについて、オラずっと気になってたんだけど。

ん、どうした?

どうやってこの画面から抜け出すの?

…………

…………

…………

閉じ込められちまったんじゃね? ワシら。

(……えええーーーーッ!?)

(何これ新手のバグなの!?  ゲーム内のキャラでさえ現状把握できてないってどういうこと!?)

フハハハハ…… ようやく自分達が置かれている状況に気が付いたか。

……ッ!? この声は、魔王ルシファー!!

わざわざ今まで話に割り込む機会を待ってたんすか? 律儀な奴っすね。

(もうちょい焦れよお前。)

貴様らにレベル上げなどさせん…… 貴様らは永遠に、このバグ空間に閉じ込められることになるのだ!

(魔王までメタ発言全開かよ!!  もはや制作者の意図をすっ飛ばした展開になってるじゃねーか!)

(いやこのカオス展開こそ制作者の意図なのか……?   もー全然わかんねぇ!!)

くっ、卑怯者め…… バグ空間が相手では俺達にできることは何も……

カセットの端子のホコリを払えば、バグも直るんじゃないすか?

(それで良いの!?  そんな安直な方法でこの状況を打破することができるの!?)

プレイヤーが行動してくれなきゃ、私達、というかこのゲームが動きを見せられないっすよ?

なんかもうどうしようもないから、ワシがR指定の隠し要素である裸踊りを披露……

バチッ!

……あ、危ない…… すんでのところで、このゲームの制作会社を爆破したくなるところだった……

要らん隠し要素を入れるなよ…… 本当に何考えてんだ制作者は。

えっと……カセットの端子のホコリを払うんだったな。 効くのかどうかわからんけど、とりあえずカセットを抜いてっと。

フーッ、フーッ。

ついでに本体側も、フーッ、フーッ。

ガシャコン!

……本当にこれで、あの奇天烈なバグが直るのか? どうも信じがたいけど……

とりあえず、電源を入れてみるか。

バチッ!

…………

……

フハハハハ! よくぞここまで辿り着いたな、オッサンよ!

(おお!?  いきなり魔王戦直前から始まった!)

だが、貴様の命運はここで尽きる! 我が貴様をこの手で葬り、全世界を我のものにするのだ!!

セリフが違うっすよ、魔王。 「この手で」じゃなくて「地獄より這い拠りし、灼熱の火炎によって」っす。

何回も繰り返してるからって、縮めちゃ駄目っすよ。

サ、サーセン。 ちょっと面倒になっちゃって。

(何回も繰り返してるとか言うなよ!  全滅するたびにゲームデータをロードしてんのに。)

(……というか、メタ満載なノリは結局そのままなんかい!!)

結局レベル上げもしないまま来ちまったなー。

仕方無いだろう。 こうなったら、個々の能力を最大限に活かして戦うしかない。

(個々の能力を活かす?)

ガムシャラにジョブチェンジさせたつもりでも、その一つ一つのジョブには必ず意味がある。

今まではその意味を理解しようとせずに、ただ闇雲に魔王に戦いを挑んだだけでは無いのか?

なすべきことをなせば勝機はある。 プレイヤーは、キャラ毎にどの技が魔王に有効なのかを見極めて、戦況を有利に進めなければならない。

(な、なるほど……  確かに今まではヤケクソになって、ただ猪突猛進に魔王に攻撃を加えていただけかもしれない。)

(ここまで的確なアドバイスをゲーム内のキャラから貰えるなんて、まるで今までの僕のプレイ振りを把握していたかのような……)

(……い、いや、細かいことを考えるのはよそう。うん。)

(ぶっちゃけもう戦闘面倒だから、ちゃっちゃと片付けて欲しい……)

来い! 全員まとめて蹴散らしてくれるわ!!

この世界の全ての生命を守る為に、ワシは……ワシは……

えっと……あれ? 何だっけ?

「今ここで、お前の野望を全て断つ!」っすよ、脳タリン。

脳タリン!?

え、えっと…… 今ここで、お前の野望を全て断つ! いくぞ、魔王ルシファー!!

(締まんねぇなぁ……)

せんとう かいし!

先制攻撃っす!

つかいま マジョ のターン!

(キャラ毎にどの技が有効か見極める……  よし、これだ!)

つかいま マジョ は わざ あまえる をくりだした!

あ、あのあの…… 魔王さんにお願いがあるんですけど……えっと……

あんまり……痛いことは、しないで下さいねっ?

グフォッ!? な、なんだこの絶大な「あいくるしさ」は……

この笑顔、愛らしい仕草…… く、くそう! 我の心がグラグラと揺れ動いておるぞ!

まおう ルシファーは つかいま マジョ にみとれてうごくことができない!

(ロリコンっすか。きめぇ。)

(表情に出てんぞ。)

(しかし、魔王相手に効いてる……  よし、いけそうな気がしてきた!)

パンダ タロウ のターン!

パンダ タロウ は わざ メガトンパンチ をくりだした!

パンダになったことで増した全身の筋力に加えて、人間の頃にはブカブカで付けられなかった特製パンチグローブによって、

何倍にも何十倍にも威力が膨れ上がった最強のメガトンパンダパンチを、喰ーらえー!!

ボグシッ!

グヘェッ!!

……きいたぜ、おめえのパンチ……

まおう ルシファーに 607のダメージ!

よっし、次はワシだな!

…………

……こいつの役職を活かすことって、できるんすか?

あきんど オッサンのターン!

なんでも売るぜぇ!?

金を稼ぐ職業の主人公なんて、夢の無いRPGっす……

(……確かにシルヴァを主人公っぽくしたいが為に、元々勇者だったオッサンを主人公らしからぬジョブに変えたのは否定できない……)

(だがここまで来て本来の主人公をないがしろにするのは、RPGプレイヤーとしてのプライドが許さない!)

(……と言ったものの、できることが少なすぎる……  うーん、どうしたもんか……)

おうおう、わざわざ剣を捨ててそろばんを武器として携えてきたんだ。 やれることなんて一つしかねぇぜ!

(一つしかないって……  なら、これにするか。)

あきんど オッサンは わざ おしうり をくりだした!

おうおう魔王さんよ! 手痛いパンチ喰らって、ずいぶん苦しそうじゃねぇか。

なっ!? く、苦しくなどないわ! 貴様、我を侮辱するつもりか!

無理すんなって! そういう時の為に用意してる品があるからよ。

特製万能薬! これ一本飲むだけで、殴られた箇所もみるみる内に痛みが引いていくぜ?

一本100Gだ。

100……ッ!? い、いや我は騙されんぞ! どうせ毒か何かを薬に仕込んでいるのだろう!?

(ちょっと揺れてんじゃねーか。  金額面で。)

なんだよ、わかったよ。 他にも用意してあるから、とりあえず一本ワシが飲んでみせてやるよ。

あきんど オッサンは とくせいばんのうやく をつかった!

ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ。

にげぇ。

あきんど オッサンのたいりょくが 500かいふくした!

これで買う気になったろ!?

くっ……わかった、買おう。

(信じ込むの早ッ!)

毎度あり!!

まおう ルシファーは とくせいばんのうやく をてにいれた!

あきんど オッサンは 100ゴールドをてにいれた!

そうそう、お買い上げ記念にこれやるよ。

あ、ご丁寧にどうも。

(貰うのかよ!  ていうか持ってきてたのかよオッサン!!)

ならばさっそく使わせてもらおう。 認めたくないが、確かに先程から殴られた箇所が痛くてかなわん……

回復する術を持ってない魔王って、なんか様にならないっすね……

(ダンボール被り始めた時点で、もはや何の様にもなっていない気がするが……)

まおう ルシファーは とくせいばんのうやく をつかった!

ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ。

にげぇ。

…………

……ムムッ!?

これは……

みるみる内に……

身体が……

……痺れてくるぞォーーーーッ!?

なんと! とくせいばんのうやく は くさっていた!

まおう ルシファーは からだがしびれてうごけない!

き、貴様…… 謀ったなァーーッ!?

いやそんなつもりは無かったんだがな…… 仕入先にも確認取ってたのに、なんでだ?

商人としての経験が足りないからだろう…… 品の良し悪しを見極める技術が無かったということだ。

(つまりあれを真っ当な客に出していたら大惨事だった訳か……  なんという皮肉な偶然か……)

ともあれ、相手が弱っている今が好機だ。 一撃で決めさせてもらう。

(そ、そうだ、今が大チャンス!  シルヴァのターンなら、これしかない!!)

けんし シルヴァのターン!

けんし シルヴァは おうぎ かすみぎり をくりだした!

闇に還れ! 魔王ルシファー!!

く、くそォーーーーッ!!

ズバッ! ズバッ! ズバァッ!!

かいしんのいちげき!! まおう ルシファーに1279のダメージ!

グワアアアアアアアアアア!!!!

バタッ

まおう ルシファーをたおした!

けんし シルヴァのレベルがあがった! つかいま マジョ のレベルがぐーんとあがった!

パンダ タロウ のレベルがぐーんとあがった! あきんど オッサンのレベルがすさまじいいきおいであがった!

……キィーーーーン……

(か、かっけえええ!!)

全部持ってかれた……

まあまあ、見せ場を作ったのはアンタなんだから、元気出しなって。

……ッ!? まだだ!!

フ…… フハハ…… フハハハハハハハハ!!

この程度で勝ったと思ったのか……? 我はまだ、力を残しておる!

貴様らは、我の真の姿を目の当たりにすることになるのだ!! フハハハハハハハハ!!

(そんな、まだ先があったなんて……  僕は第一段階で手こずっていたというのか!)

見よ! これが我の、真の姿だァーーッ!! フハハハハハハハハ!!

……あのー。 正直そういうの、もういいんすけど。

ハハハハハハハ……は、え? 何?

あ、気分良く変身しているところすいません。 中途半端なところで止めちゃったっすね。

もうそういうの、要らないっす。 ほらあの……もうエンディングに突入する流れで。

あまりにも繰り返し同じ場所で戦い続けたんで、これ以上はしんどいんすよ。

え……でも、これからの為に余力残しておいたのに……

アンタはここまで連戦連勝だからさぞかし気分良いだろうけど、こっちは何度も何度も負け続けてきたんだよ。

やっとこさ虎の子の一勝をもぎ取ったってのに「フハハ、まだ力を残しておるゾー」とか、鬼畜な上にKYなんだなー。

け、KYって…… ここが盛り上げ所だから、こっちも身体に鞭打って頑張ろうってのにそういう言い草は……

おーわーれ! おーわーれ! おーわーれ!

え、あの、ちょ……

おーわーれ! おーわーれ! おーわーれ!

…………

……クスン。

パタリ。

(ええええええええええ!?)

こうして、オッサンたちいっこうのかつやくにより、せかいにへいわがもどったのでした。

ありがとう、オッサン! ありがとう、なかまたち!

Game Designer HIKARU IIJIMA

Programmer KATSUTO OGURI

・ ・ ・ ・

…………

…………

…………

…………

終わりかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!

ドン!!

あっ、ご、ごめんねマイシスター。 もううるさくしないからね。 終わったから。

…………

はぁ……

売りに行くか、このゲーム……

(店員)ではこのゲームソフトを、50円で買い取らせて頂きまーす。

安ッ!

ー終ー

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Posted at 2012/11/12 22:54 Viewed 20 times

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くっそ長い上に、トンデモ展開てんこ盛りです。

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