『バレンタイン・デイ』

今年もそういう季節がやってきたわけだけど。

驚いたわ。まさかあなたからバレンタインの話を振ってくるなんて。

あなたとバレンタインなんて、地球と冥王星くらい縁遠い話でしょうに。

おーっと今日も飛ばしてるねぇ! でも結構グサッと来てるからやめてくんないかなぁ!

そんなこと言ってるけど、バレンタインに何か予定でもあるのかしら?

あるさ! 聞いてよ私の夢のシチュエーションを!

明かりの点いていない暮れなずむ生徒会室。瞳にオレンジのカラーフィルムを貼り付けたような、どこか幻想的な空間の中に、一人の少女がいた。

ふう、今日の仕事はこんなもんかな。

ちょっと待ってもらえるかしら。

なんだよもぅ~、まだ始まったばっかりじゃんか~!

あなた生徒会入ってないでしょう。

うわーそこ突いちゃうかー! ったくやりにくいなぁ……。

え……なんか今悪態つかれたような……。

そういうことは気にしないの! ほら、続き行くよ続き!

予定も何も、根本的に設定がおかしいのよね……。 実現させるつもりは無いのかしら……。

ふう、今日の仕事はこんなもんかな。

私はおもむろに携帯電話で現在の時刻を確認する。

6時かぁ。そろそろ暗くなってきちゃうし急がなきゃね。

その際、デジタル表示の時計と一緒に今日の日付にも目が行ってしまった。

二月十四日……。 ああ、もうそんな日なんだね。

拓哉が死んじゃってもう二年が経っちゃうのかぁ。そういえばあの日もこんな綺麗な夕焼け空だったなぁ。

ちょっと!!!

なんだよもう! さっきから人の話の腰ばっかり折ってさ! 常に生傷が絶えない格闘家か何かなの!?

どんな例えよそれ! っていうか、拓哉誰よ!!

それはおいおい分かってくるからさ! とりあえず黙って聞いてなって! 次喋ったらさるぐつわだからね!

さるっ!?

そう、二年前の二月十四日――。 弟の拓哉が死んだ。 二人で信号待ちをしている最中、大きなトラックが突っ込んできたのだ。

本当に突然のことだった。私は119番にかけるより先に父の携帯に電話をかけた。

父は医者をしている。 そんな父は弟が撥ねられたと聞いて真っ先に俺のところに連れて来いと言った。

父は自分の息子の命を繋ぎ留めるためにこれまで培ってきた医者としての技術を全て使い果たした。

――そして弟は目が覚めると、サイボーグになっていた。

……このチョコ、あんたのために作ったんだよ。 なんでかな、忘れなきゃいけないって分かってるのに。

そう自嘲して私は不器用なりに包装したチョコレートの包みを解く。 市販の板チョコを溶かして作った安易なものだ。

はは、あんたの口に合うようにとっても甘くしたつもりなのに、すごく苦く感じるよ。

気がつけば日は落ちようとしていた。先ほどまで鮮やかに染まっていた生徒会室も次第に光が失われつつあり、得も言われぬ焦燥感に駆られる。

そんな暗がりの中、私は一人チョコレートを噛じる。

それは無意識のうちにあの日、何もすることができなかった私に対してほぞを噛んでいたのかもしれない。

……って感じかな。

こんな感じって……一体どこから突っ込んでいいのよ……。

もう滅茶苦茶よ。生徒会役員じゃない他に、いるはずのない弟は改造手術受けてるし、なんだかすごくしっとりとした感じだし……。

ちなみに弟は超人的な力を手に入れた代わりに悪の軍団と戦う宿命を負わされるよ。

そういう設定はいいから!! ああもう聞いていられないわ!! 帰る!

あ、ちょっとちょっと!

何よ、もうこれ以上あなたの茶番に付き合ってなんてーー

はい、ハッピーバレンタイン!

これって、チョコ……?

うん、ちょっと早めだけど、思い立ったらチョコ日って言うもんね!

言わないから。

ま、まぁくれるっていうならありがたく頂こうかしら。 あ、じゃあバレンタイン当日にお返しするわね。

いいよいいよ気にしないでってば! あなたのデレ顔が見れただけでも私は嬉しいよ!

これがほんとのデレンタインデーってやつですかな!

だっ……だだ台無しよ!!!

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公開日 2013/02/07 20:28 再生回数 30

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