あの騒動から3日が経った。
……はぁ……朝からお元気な事で……。
マイク越しに聞こえてくる怒声は日が経つにつれて増えていく。 さすがに夜中は聞こえてこないが……張り込んでるみたいだ。
ご、御主人様ああああぁぁぁ!!!
うわ!?あ、歩夢か!?
歩夢は本人の希望で俺のお世話役の二人目となった、こいつ曰くいつでも紗希に抱き付けるかららしい……。
何だ何だ、どうした? そんな泣きそうな顔をして……あの声ならほっとけ。
さ、紗希ちゃんが……紗希ちゃんが……!
っ!! 紗希がどうしたって!?
ひ、一人で買出しに……。
んな!? こんな状況で……買出しに行っただと!?
(たかが買出しだと思うが今の状況だとかなり危険だ!あの市民団体は紗希を目の仇にしてるからな)
紗希ちゃんが……自分がこの家から出ればこの怒声も遠ざかるだろうって……それで一人で……。
メイド長は?
メイド長の制止も聞かずに飛び出してしまいました……どうしよう……御主人様……。
(……あの馬鹿……!)
歩夢は家から一歩も出るなよ? メイド長の指示に従え。 ……俺が紗希の所まで行ってくる。
え!?御主人様一人でですか!? 危険過ぎますよ!!あの連中何しでかすか分からないんですから!!
そんな危険な場所に紗希は一人で行ったんだ、しかもこの家を思ってだぞ?か弱い何の力も持ってない女の子がだぞ?
……主人が出来なくてどうする。 こういう時こそ……主人の出番なんだよ。
御主人様……。
何、心配する事は無いさ。 俺には不死身の親父の血が流れているしな、多少の事じゃビクともしないさ。
あは!それは言えてますね!!
後は任せたぞ、歩夢。 メイド長には適当な事言っておいてくれ。 ……必ず紗希は無事に連れて帰ってくる。
……御主人様……紗希ちゃん……無事に帰ってきて……。
その頃紗希は買い物袋を片手にマスコミと市民団体に囲まれて身動きが取れなくなっていた。
お、お願いですから通してください……!
紗希ちゃん!あなたのご両親がリバイバルカンパニーの資金を着服していたという噂がありますが本当ですか!?
何を買ったの?君の御主人様が喜ぶ物を買ったのかな?優しいねぇ~。
容赦なく突きつけられるマイクと焚きつけられるフラッシュが紗希の行く手を阻む。
(……御主人様……申し訳ありません……私のせいでこんな事に……)
オラーこの捨て子ー!! 泣けば許されると思っているのかー!!
リバイバルカンパニーから盗み取った金を我々に渡す気はないのかー!!
(……ごしゅじん……さま……)
ねぇねぇ紗希ちゃん?黙っていたら話は進まないんだよ?君が喋らないと僕達も記事が書けないの、仕事が出来ないんだよ?
あなたは真実を語らなければいけないんですよ!そのまま口を閉ざすおつもりなのですか!?
反応しない紗希にマスコミは苛立ち下劣な質問をぶつけてくる、紗希は今にでも泣き出したい衝動に駆られたが必死に押さえ込む。
(……ぅ……ま、まけない……ここで泣いたら……また御主人様に……)
紗希ちゃんは見た目が可愛いよねぇ~。 君の御主人だっけ?紗希ちゃんの身体目当てで引き取ったの?
っ!!
夜はいつも添い寝をしてる訳? それで御主人に襲い掛かられてるの?いや~鬼畜な御主人……。
いい加減にしてよ!!
マスコミの不躾な質問で紗希の怒りに火がついた。 騒がしかった周囲は一転、静まり返る。
何なのよアンタ達は!根も葉もない噂を勝手に信じ込んで!私の両親は何も盗ってないし何もしていない!!
……私は何言われたっていい……でも御主人様の悪口だけは許せない!!
鬼畜なのはアンタ達よ!!
涙ながらに激しい怒りを見せる紗希。先ほどとは打って変わった様子にマスコミ達は思わず後ずさる。
っ!!
あ、逃げたぞ!! 追え!追えー!!
俺達が嘘を言っているというのかゴラァ!!テメェ血を見せたろか!!
ハァ…ハァ……。
……どうしよう……カッとなっちゃって……答えちゃった……。
……御主人様……申し訳……ありません……ごめんなさい……ごめんなさい……ごしゅじんさまぁ……。
どうしたんだいそこの子猫ちゃん、何を泣いているんだい?
……っ!!あ、貴方は!!
はぁ~い紗希ちゃん!! 久しぶりだねぇ!!
……リバイバルカンパニーの……御曹司……。
いやぁ~あのパーティー以来だねぇ紗希ちゃん。 君のあの美しい姿に僕はもうメロメロだよ!
ち、近寄らないで!!
え~せっかく再会したのにそんな事言っちゃう? 僕悲しいなぁ~。
……この騒動は……貴方の仕業でしょう……全員口に出すのはリバイバルカンパニー関連の事ばかり……!
いやぁ~民衆って本当に扱いやすいよね!日頃何かに飢えているのか本当かどうか分からないネタを真実だと思って行動しちゃうしね!!
ま!勝手に動いてくれるから僕はやりやすいんだけど!!
何で……何でこんな事……するのよ……!私は……今の生活が一番なのに……!
あぁ……いいよぉその顔……。 儚くも可憐で美しい……その泣き顔……。
っ!!
何でこんな事するかって?それは勿論紗希ちゃんを僕の妻にしたいからさ!あんな馬の骨みたいな家で使用人として使われている紗希ちゃんが不憫で仕方なくて仕方なくて!
あぁ僕は何て優しいんだろう! 苦しむ紗希ちゃんを助けてしかもお嫁にしてあげる僕!!あんな馬鹿みたいな男に紗希ちゃんは渡せないよ!!
止めて!御主人様の悪口を言うのは止めて!!
違うだろぉ紗希ちゃん?君には御主人様は居ないよぉ?君の隣に居るのは夫であるこの僕だよ?
貴方みたいな異常者が私の隣なんて絶対に認めない!今すぐどこかへ行ってよ!!
いいねぇ……その強気な顔……。 その顔を僕好みの顔にしたい……こう見えても僕、力は強いんだよ?男だしね。その強気はどこまで続くかなぁ……。
……ぅ……来ないで……来ないでよぉ……。
あぁ……もう我慢出来ない……。 今すぐ君を僕の物にしてみせる!!
嫌……いやああああああぁぁぁ!!!
待てぃ!!
……っ!!
む!?誰だ!?誰だ今待ったをかけたのは!! 姿を現せ!臆病者!!紗希ちゃんは僕が守る!!
とあああああああぁぁぁっ!!!
あぶぶ!?
……ごしゅじん……さま……。
待たせたな紗希!! あっちこっち走り回って探したぞ!!
ごしゅじんさま……ごしゅじんさま……ごしゅじんさまっ!!
よし掴まえたぞ!!もう絶対に離さないからな!!
ごしゅじんさまああああぁぁぁ!!! うわあああああああぁぁぁん!!!
いたた……おいそこの無礼者!! 紗希ちゃんを返せ!!
ん?誰だお前は。
誰かって?僕はリバイバルカンパニーの御曹司で紗希ちゃんの最高の夫さ!!
……なるほど、お前があのポンコツ御曹司だったのか。
何だよ!馬鹿馬鹿しい男にポンコツなんて言われたくないね!! 僕の方がお金持ちだし経済的に紗希ちゃんを幸せに出来るんだよ!!
力ずくで奪った愛に幸せが長続きするとでも思ってんのか!? 本当だったらどんだけメルヘンの世界に生きてるんだお前は!!
愛さえあれば何でもいける!愛があるかぎり幸せは続くのだよ!分かったかい?貧民の諸君!
ほぉら紗希ちゃん!そんな君を泣かせた男の側になんて居ないで僕のと所へおいで!僕が幸せに……。
うるせぇ!!
ぎゃふん!!
テメェみたいな奴に紗希は渡さねぇ……、お前みたいな奴が紗希を幸せに出来るはずがない……。
ごしゅじんさま……ごしゅじんさま……。
……帰ろうか、紗希。 買出しも……終わったんだろう?
ごめんなさい……ごめんなさい……わたしのせいで……こんな……こんな……!
バーカ、何言ってんだよ。
……っ!
お前は強いよ、こんな状況なのによく一人で外に出た……しかも逃げ出さずに最後まで俺の為に怒っていてくれた……。
褒める事は山ほどあるが叱る事は微塵も無いさ。
あ……あぅ……。
もういいんだ紗希、お前から掴みきれないぐらいの勇気をもらった。 ……何も恐れる事はない、親父にメイド長、歩夢と……俺が居る。
ぁ……あぁ……。
負けるかよ、こんな奴に……。 俺の隣には紗希が居る、紗希の隣には俺が居る……な?
はい……!そう……です……! わたしのとなりは……ごしゅじんさまだけです……!!
んじゃ、二人で堂々と家に帰るとするか。今は俺が居るんだ何も恐れる事はないさ。
はい!……どこまでも……御主人様の側に……!!
帰り道は勿論マスコミらが取り囲んできた、だが相手にせず俺たちは無理矢理通り我が家を目指した。
帰り道はずっと紗希が幸せそうに俺の腕に抱きついてた。この温もりがある限り俺はどんな奴にも屈しない……そう思える。
……はっ!!家に最強の敵が居るのを忘れてた!! ……やばいなぁ、これは……。
……フ……フフフ……。
まだ……終わりじゃないよ……絶対に僕のものにしてみせる……待っててねぇ、紗希ちゃん……。
~続く~