なによ、急に呼び出したりなんかして……。
……。
……例の短冊の件、色々と考えてみたんだ。
呆れた……。烏森ってば、まだあんなものに執着してたの?
というか、そもそも、自習のために、図書館に来てたんじゃないの?
気になって、それどころじゃない。
だから、今回の件、俺なりに結論を出してみたんだ。聞いてくれるか?
(な、なんなの……? こんな真剣な顔の烏森、ハジメテ……ッ)
分かった……アンタがそこまで言うなら……。
ありがとう。
ロサンゼルスって言うのはな──
「lost Angels」……、すなわち「天使が消えた街」ではないんだ。
う、うん……?
なんて悲しい名前の街なんだ……。
……子供の頃から今日までずっと、そう思い込み続けていた。美久利に指摘されるまでな。
……。
……で、短冊の話は?
……ゴホン。
……これも、美久利に言われるまで、気づかなかったことなんだが……。
(短冊なんだからさ、然るべき場所に飾るのが一番なんじゃないかな)
然るべき場所?
昔から、願いを込めた短冊は、笹に吊るすのが習わしだろ?
確かにそうだけど……。
でもアレって、願いってよりかは、一言日記みたいな感じだと思ってたけど。
……日記は日記でも、夢日記だったのかもしれない。
『十七歳の天使』が、短冊に込めてまで叶えたかった夢……願いだったのかも。
火曜に遊んでくれる友達も、金曜に一緒にカレーを食べたり、 日曜に遊園地に連れていってくれる家族も居ない、天涯孤独な子──
──それが、『十七歳の天使』だ。
月曜のカエルの姫って言うのは?
歳を取るにつれ、周りと違って、友達や家族の居ない自分のことを不幸だと悟ってしまった彼女は、
自分が幸か不幸かさえ、何も知らない、なんの柵も無い、井の中の蛙になりたかったんじゃないかな。
そして、最期の日曜日、彼女は──
……永遠の眠りを選んだ。
そんな……、じゃぁ、『十七歳の天使』は──
いつか行ったカレー屋の店先にあったもの、憶えてるか?
……!
そういや、なんでこんな時期に飾ってるんだろって、不思議に思ってたけど……?
俺は、早く自分の勉強に戻りたい。
全てを、終わらせに行こう──。
ムシャ……ムシャ……
げふ……あー、笹無くなっちまったな。でも、取りに動くの面倒くせぇ……。
ほら、持ってきてやったぜ。笹
……ん、誰だかしんないけど、ご親切にどーも
それと、コイツもな。
……! それは……
この短冊、アンタのモンだろ? 『十七歳の天使』さん?
アンタが人間だった頃に書き残した切なる願いの数々……。
そうか……、まさかここまで辿りつく人が居たとは……。
人間であることに絶望した私は、次に眠りから覚めた時、パンダに生まれ変わっていた。
パンダなんて、動物界のスター……。私が人間だった頃よりも、多くの人に長く愛される……。そう思っていた。
でも、現実は違った。
私を産んだ母親パンダのネグレクト……
初めてのお披露目の日…… 「小豆色のパンダなんてパンダじゃない!」って、小さな子供に言われた時の私の気持ち、分かる!?
そして、そのまま人の目に触れることなく、陰でひっそりと生き続ける日々……。
パンダになっても、人間の頃と同じ。
私は、誰にも愛されない。
そうやってお前は、また永遠の眠りを選ぶのか?
そうだね、そのほうがマシかな
……パンダなんて、目開けてるか閉じてるか、わかんねーじゃねーかよ!
いいか、その目見開いて、今一度問おう!
『十七歳の天使』……、今、お前の目の前に、何が見える?
カレー屋の店主から聞いたぜ。お前、今日誕生日なんだってな。
や、やめろ……!
……さぁ、夢から覚める時間だぜ、『十七歳の天使』さんよォ。
【テレビの音声】 「○△動物園に、パンダの赤ちゃんが産まれました。とてもカワイイですね」
……。
烏森、勉強捗ってんの?
なぁ、ワンコ。
お前、今幸せか?
……なに言ってんのお前?
俺は、幸せだよ!
勉強し過ぎて、頭おかしくなったんじゃ……。
あのテレビに映ってるパンダも、幸せだよな?
……あんなに多くの人に祝福されてるんなら、幸せなんじゃないの? 知らんけど。
だよなァ!
お待たせしました。ご注文のカレーになります。
あと、こちら、よろしければどうぞ。
短冊? 七夕はもうとっくに過ぎたけど……。
ウチの店の織姫様と彦星様は、気前が良いので、毎日願いを聞いてくれるんですよ?
だってさ。ワンコ、お前も書いたらいいじゃん!
ひんぬー卒業して、ばいんばいんのどスケベJKになりたいって!
笹に刺されて○ね
あは、ダジャレだ
違う、今のはわざとじゃ……
そ、そんなアンタは、何書くのよ?
俺の願い? ……そんなの、1つに決まってんじゃん。
……アンタらしい、無駄にスケールのでかい願い事だこと。
いくら気前が良いって言っても、こんなお願いされたら、流石に困っちゃうわね、織姫と彦星も
そうかもな。
俺の願いは──
十七歳の天使 完