薫のバイトの先輩の粋な計らいにより、個性のごった煮と化してしまったカラオケ個室内であるが、構わず合コンは開始された。
貧乏一人暮らし少年の巧は独り身のクリスマスを回避するべく、年上アダルティーお姉さんの玖々莉に目星を付けるが……
ねぇねぇ巧くぅん、私と熱~いデュエット歌わない? お姉さんリードしちゃうわよ~!
どきなさいよブス。 巧と一緒に歌うのは、未来のヨメであるこの私よ!
お前らちょっとワイから離れろや! 暑苦しくてかなわんわ!
左右を強敵(ツワモノ)に包囲されて身動きが取れなくなり、玖々莉とのコミュニケーションもままならない状態であった。
…………
……おい、奈緒美(なおみ)。 ちょっと来てくれ。
ん、何? どうしたの?
おーい、お前ら。俺ちょっとトイレ行ってくるわ! 勝手に盛り上がっててくれ!
はーい、行ってらっしゃーい!
ガチャッ、バタン!
私も済ませとこ! 行ってきまーす!
ガチャッ、バタン!
(何や、いきなり二人だけで出て行きおって。 怪しいな……)
…………
はぁ……自分で呼んでおいてなんだが、アクが強い奴らばっかでなかなかしんどいな。
ホント、何のための合コンなのか分からなくなってくるわ。 貴方、一体どういうつながりであの人達を呼んでいるの?
ああ、玖々莉と珠里はバイトの同僚だ。薫も同じバイトをしている。
真……というか雪姫は、俺の友達の知り合いなんだ。そいつが女装系に詳しい奴で、そのツテで雪姫と面識を持つようになった。
……で、お前が元バイトの同僚のよしみな訳だ。
まったく、そんなよしみで駆り出される身にもなって欲しいわ。 いきなり「恋のキューピッド役を手伝ってくれ」なんて……
まぁ、そう言うな。 可愛い後輩の頼みを無下にするわけにゃいかねえんだよ。
薫くんのことね。 さっきまで話してたけど、中々良い子じゃない! 意気投合しちゃった!
あぁ、「クリスマスの日に、幼馴染に一度でも良い夢を見させてあげたい」だなんて、自分のことは棚に上げて良く言うわ。
幼馴染ってあの子でしょ、巧くんだったっけ? あの奇抜なファッションした……
いや、お前も相当なモンだと思うけどな…… それはいいとして、どうだ? あの巧とやらに合いそうな奴はいたか?
うーん……豚さんと珠里って子が猛烈アタックを仕掛けているようだけど、巧くんの反応を見る限り望み薄そうだしねぇ……
あの赤髪の人は? 年上だけど、どうやら巧くんは彼女にゾッコンみたいよ。
あー……あいつは、諸事情というか、問題が……
あいつ……玖々莉は、彼氏持ちなんだよ。
ハアァァァァァ!? じゃあ何で合コンに呼んだのよ!?
いや呼ぶつもりなんて無かったんだが、珠里辺りから合コンの話を聞き出したらしくてな……
軽い上に何にでも首突っ込みたがるタチなもんで、来んなっつっても聞かねえんだよ。
つくづく不憫ね、巧くんも…… でもどうするの? 私が行っても相手にしてもらえないでしょうし……
……もう正直、「奴」しか適任はいないんじゃないかと思ってる。
どうやら巧と以前から面識があったようだし、見たくれならかなりのモンだろ。それなら十分行けんじゃね?
それってますます不憫な気もするけど……「ひとときの夢」って考えれば、それも有りなのかもしれないわね。
よっし、そうと決まればさっそく作戦を開始するぞ、奈緒美! しっかりサポートしろよ!
相変わらず強引なんだから、徹(とおる)は。 どうなることかしらね……
……一方、個室にてーー。
と、その前に。
ところで、あの豚さんとはどういう関係なの? それだけ説明してもらってないんだけど。
……あの、まったくもって関係が無いんだが。 一体何者なんだ、あの豚女は……
……改めて、個室にてーー。
あらぁ、雪姫ちゃん歌とっても上手じゃない! 素敵よ~!
ありがとうございます~! 豚子さん!
(ゴクゴクゴク)プハァーッ。
……なぁ、真。一つ聞いてもいいか?
その名前で呼ぶのはやめてください。
……はいはい、雪姫さん。 一つ聞かせてもろうてよろしいでしょーか?
何ですか?
お前女装してこの合コンに来てるけれども。 男か女か、どっちに会いに来てるん?
えっ!? えと、それは……
中途半端やん、それじゃ。 仮装して集まる場所ちゃうねんぞ?
(……お、お前がそれを言うか!)
巧、あまり深入りしてやるな。 「彼女」にも複雑な事情があるんだ。
事情言うたって、それとこれとは話が別やん。 そんなら合コンに来る意味だって……
巧ッ!!
シィーーン……
な、なんや……いきなり大声出して……
あ……わ、悪い。
ちょっと、何さっきから私のダーリンにちょっかいかけてんのよ! やめてよね!
お前は黙っとけや!!
ガチャッ!
おーす、戻ったぞー……って、どうした? あんまり盛り上がってないな。
……あ、い、いや! 何でもないのですよ! 間が悪く徹さんが入ってきちゃったっていうか!
そうなのか? それなら悪いことをしたな。 何にせよ、合コンで盛り上がらないなんてもったいない。
ここは詫びとして、俺が場を盛り上げ直すとしよう。 というわけで、合コン定番「王様ゲーム」を開催するぞ!
おおー! いいじゃん、王様ゲーム!
(王様ゲーム……うまくいけば、玖々莉さんとあんなことやこんなこと!) やりましょう! ぜひぜひやりましょう、王様ゲーム!!
ハッハッハ! 割り箸準備してきた甲斐があったわ! それじゃ配るぞー。まずは女性陣からな。
それじゃ、私がお先に取らせてもらうわ~!
おう、さっさと取ってけ豚。
豚、じゃなくて豚子よ! 失礼しちゃうっ!
…………
よし、みんな取ったな! それじゃ……王様だーれだ!?
……あ、私王様ー!
それじゃ、何を命令しようかなー…… (チラッ)
(サッ)
(……先輩、何かやってるな……)
それじゃ、3番と6番の人がーー
(3番……お、ワイが3番や!)
(6番玖々莉さん来い! 6番玖々莉さん、来おぉぉぉぉぉいっ!!)
果たして、6番の割り箸を引いたのは誰なのか? 巧は、クリスマスを共に過ごすパートナーを見つけられるのか!?
ー続くよー
次回はダメリンゴさん、よろしくお願いします!