いてててて、 ん？ なんだここは？
・・・。
はっ！まさかここって幽楽寺じゃないか！？ そんな…実在していたなんて…
リーン… リーン… リーン…
な、なんだ？ 鈴の音がどんどん近づいてくる。
リーン… リン。 僕の背後で鈴の音が止んだ。
あなた…だあれ？ あなた…だあれ？ あなた…だあれ？
背筋が凍る。 本能で振り向いてはいけないと感じた。
僕はただの迷い人です。 ごめんなさい、すぐに帰ります。
ねぇ…右足ちょうだい ねぇ…右足ちょうだい ねぇ…右足ちょうだい
う、うわあああああああああ
僕はその場から一目散に逃げた！ 逃げた、 逃げた…のに…！
くそッくそッくそお！ 何度逃げてもまたここに来てしまう！
おいしいよ おいしいよ おいしいよ
え…？
あれ、右足がなくなって…！？
今度は…左足ちょうだい 今度は…左足ちょうだい 今度は…左足ちょうだい
やめ… やめてくれ… やめろおおおおおおおおおお
ねぇ、あなた…だあれ？ どうしたの？ 大丈夫？
ん…？ ここはさっきの場所 あれ？足がある…
ねぇってば！ 聞いてるの？
え、あ、はい 大丈夫です。 ところであなたは？
まったく ぼーっとしちゃって。
私はここを管理している者、とでもいっておきましょうか。
ここって…幽楽寺を？ 幽楽寺って幽霊たちの楽園って呼ばれる場所ですよね。そんな場所を一人で？
ふふふ。 ま、一人でやるのも慣れたものよ。いつものことだから。
へぇ、そりゃすごいや。 女の子にこう言うのもなんだけど、僕を送ってくれないかな？
もちろん。 そのつもりで来たんですもの。
よかったぁ いやー、さっきすごい怖い目にあってさ。一人じゃ不安で不安で。
ふーん 怖い目にあったってどんなことされたの？
幽霊に右足とられたんだよ。それで次に左足とられそうになるんだけど…そこからよく覚えてないや。
へぇ。
まぁ実際足あるし、リアルな夢だったのかな？
それってもしかして、こう言われたのかな…
ねぇ…右足ちょうだい ねぇ…右足ちょうだい ねぇ…右足ちょうだい
！？ ま、まさか… お、お前が…
ふふふ。
びっくりした？ あなたの背後に立った時にさ、ガチガチに固まってたから、ちょっとおどかしちゃおうと思って。
な、なんだー そゆことだったのか。 もう本当に怖かったんだからやめてよ。
ふふふ ごめんね。
まったくもう。 あ、もうこんな時間だ。 悪いけどすぐに近くの駅まで送ってくれる？
何言ってるの
え？ さっき送ってくれるって言ったじゃないか。
送る場所が違うわよ。
ん？
ここは幽楽寺…迷い込んだ幽霊を極楽浄土の地へと送る寺。
それってつまりどうゆう…？
幽霊を成仏させる寺ってことよ。 迷子の迷子の幽霊さん。
！？
そんな… はっ！もしかしてあのとき僕は…
そう、崖からすべり落ちて死んだのよ。 まだ若いのに可哀想に。
そうか、そうだったのか… 僕はもう死んでいたのか。
スーッと身体が透けていく。 「死」というものを自覚したからだろうか。
最後に何かして欲しいことはないかしら？ なんでもいいから言ってみなさい。
そうだな チューして欲しいな
ふふふ じゃ、右足ちょうだい
ハハハ、それはもう勘弁してくれ。 ありがとう、最後に君に出会えてよかったよ。
うん…
それじゃ、僕はこれで逝くよ… バイバイ
バイバイ ちゅっ
あっ
ここは幽楽寺…迷い込んだ幽霊たちを極楽浄土の地へと送る寺。
もしかしたらこの寺には、この世での最後の思い出に、幽霊たちを楽しませようという彼女の思いが込められているのかもしれない。
ふふふ バイバイ
リーン… リーン… リーン…
