『図書館への贈り物』

誰も来ない図書館だなんてねえ…。 来るのは小包だけ、か。

創立100年を数える我が校の図書館宛に、荷物が届いた。珍しい出来事だったから誰かに話したくてしかなかった。

だけど、そんな時に限って図書館には誰も居ない。昼休みだというのにもっと生徒たちで一杯になればいいのに、と外の陽気を羨む。

まぁ、いっか。そろそろ誰かやって来るはずだから。

私は昼休みになると必ずここに来る。 まあ、私は図書委員長だからだし、図書委員長でなくてもここに毎日来る自信はあるぐらいの図書館ヲタだ。

だから、この図書館の事ならなんでも知っているつもりだ。確証はないけど。

誰も居ないのは静かで結構なんだけど、あの『わさわさ感』なのよねー。 ああ!図書館に居るんだっていう『わさわさ感』

わんわん!

そう。『わんわん感』…

って、違うし!またアンタな訳?

図書館の事なら図書委員長には負けないぐらいだけどなぁ

常連客。一つ下の学年で、昼休みごとに図書館にやって来るイヌっころのようなヤツ。

まあ。わたしの話し相手が出来たということだけでも褒めてあげようかな。ほら!お座り!

委員長。何だか今日は何かを話したくてうずうずしているんじゃないんすか?

人を見透かしたような事言うんじゃない!イヌ!

図星だ。委員長は分かりやすいっす

イヌだけに嗅覚は鋭い。図書館の事より、図書委員である私の事なら誰にも負けないと?それはさておき、私はコイツに図書館宛に届いた荷物の話をした。

我が校の図書館宛に届いた二つの荷物。差出人は分からず。ずっしりと重く、遠くはるばるここへと辿り着いたように見えた。

中身は?

いや、分からない。なんかヤバイ物入ってたら怖いから先生に見せるまで開けてない。

ふーん。じゃあ、こうしようよ! 勝手に開けちゃおう!

知らないよ。何が起こっても?責任取れる?何を持って責任取ったって言える?言えないでしょ?

責任なんて委員長なら自らかぶるべきだよ。でも、いいの?図書館の事ならなんでも知ってるつもりなのに、知らないつもりでいるわけ?

なんか…ムカつく。それ。じゃあ! 責任取ったるわい!

ちょっとあの箱、先生と一緒に開けてくるから!

…。結局、先生だよりなんだ。

す、すいません!図書委員の人ですよね!

ようこそ、書痴の園へ! 迷える子兎さん、何なりと御用を!僕が君の手となり足となり、身を粉にして受け止めてあげようではないか!

あの…。本を返す期限を忘れて3日過ぎちゃったんですけど。だめですよね?

ははは!心配は要らないよ! 君を虜にした本がどれだけ魅力的かって事だよ!本も別れを惜しんでるに違いない!

でも、人として生きるには規則を守らなければならない。過ちには償いを…だ

ですよね…。ごめんなさい! 私、どうも忘れん坊屋さんでして。でも、これって言い訳ですよね。

償えば良いよ。今日だけ借りることを諦めれば、また本との出合いが待っている。だから、さあ!お昼休みの時間一杯ここでインクの香りを楽しむが良い!

は、はい!すいません! そして、どうもありがとう御座いました!図書委員さん!

さあ。好きなだけ活字の森で迷うが良い!本が好きな子には悪い子はいないって、僕は信じている。

何が『本が好きな子には悪い子はいない』よ!あんた図書委員じゃないクセに身分を偽るなぁ!

わんわん!

何がわんわんだよ!

イヌ!…そうだ!さっきの荷物の話! 先生に許可を頂いて開けてみたんだけど…びっくり!

ここの…ここの図書館の本が帰ってきたんだよ!

図書館の本?どういうこと? ぼく、イヌだから分かりません!

調子いいね、アンタ。ま、話すけど。 なんでもね、60年程前に借りられた本なんだけど、今戻ってきたらしいの

そんな前なんだ? で、さあ。どうして今頃?

どうしてだろうね。 きっと借りた人…私たちの大先輩が借りた本を守ろうとしたんじゃないのかな?

守ろうとして?何から? どうして?どうして?

イヌミミをかっぽじいて聞いてくれ。 これは私の想像でしかないんだけど…

先生から聞いたんだ。 昔、この辺りが戦時で焼け野原になったらしいのね。で、この校舎も例外ではなかったの。

そこで私たちの大先輩が貴重な蔵書を守るために出来るだけ救い出した。 そして、戦火から逃げるように姿を晦ませた。

わん。学園の行く先を見通していたようにだね。

そして、今。混乱の時代を超えて。 返すタイミングを失って匿名にてここへと箱に詰めて送った。って訳。

そうなの? しかし、随分と忘れん坊屋さんな大先輩だよね。

所詮、わたしの想像だけどね。 でも、本が好きな人には悪い人はいないって信じてるから。

そうなのかなぁ? でも、だったらいいな。同じ本好きな後輩として。

本を守ろうとした大先輩を私たちは責めてはいけないんだろう。しかし、何故今頃になって…。それに匿名で。

尻尾を振ってわたしに理由を求める イヌに「わたしは分からない」と言い残して、少々この場を離れた。

図書委員さーん!

迷える子兎くん!どうした?

あの…お伝えするのを忘れてたんですけど。荷物が届いてないですか? ダンボール箱二つほどの。

ああ!あれだね!しかと受け取ったよ!しかし、どうして君が?

あれはですね。ウチのおじいちゃんが送ったんです。どうも昔から忘れん坊屋さんでして、その性格は私にも受け継がれちゃったみたいなんです。

おじいちゃんが「長い間ご迷惑かけました」って。ですよねー。

僕の想像だけどね。本が好きな人には悪い人はいないってね。おじい様に伝えてくれ!「あなたの後輩から、ありがとうございました」って!

はい! 世代を超えて、ご迷惑かけました!

なるほどねえ…。もしかして、おじい様はあの子といいおじい様といい、一族揃って誰かに迷惑をかけたくないから、あえて匿名にしたのかもしれないね。

イヌ!!本好きの端くれなら、図書委員の身分を偽るなって!

わん!

ま。コイツ、悪いヤツじゃなさそうだし… いっか。図書委員にでもなる?って誘ってみるかな。

おしまい。

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公開日 2012/09/30 20:23 再生回数 20

作者からのコメント

図書館はいいものだ。

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