俺「じゃ、いってきます」
嬢「いってらっしゃい。…ちゅっ」
俺「ん…。いい子にしてるんだぞ?」
娘「もう子供じゃないもんっ」
俺「ははっ、いつになっても、俺たちの子供だろ?」
娘「そ、そういうことじゃないもん…」
嬢「あなたは見送りいいの?」
娘「いいよ、もぅ」
俺「反抗期か?」
嬢「そうなのかなぁ。じゃあ、仕事頑張ってね」
俺「あぁ」
・・・・・・
娘「お母さーん」
嬢「なぁに?」
娘「お母さんは、なんでお父さんと結婚したの?」
嬢「うーん、何でだろ…?優しかったから?」
娘「ふーん…。結構歳の差あるよね?どうやって出会ったの?」
嬢「えっとー…、実は、あの人に誘拐されたのが、出会いなんだよね…」
娘「えっ!?誘拐されたの?」
嬢「うん」
娘「じゃあ、誘拐犯と被害者で恋に落ちたってこと?」
嬢「まぁ、そんな感じ。あの人、誘拐犯にしては変だったからねー。すごく優しくしてくれて」
娘「それで、そのまま惚れちゃった、と」
嬢「そうそう」
娘「へぇ~、そんなこともあるんだ…」
嬢「あ、でもでも、きっと私のはすごく特殊な例だから、誘拐には気を付けるんだよ?」
娘「わかってるって。お母さんみたいに、いつまでも子供っぽいままでいたくないしねー」
嬢「ふぇっ?こ、子供っぽい?」
娘「あ、見た目も込みで」
嬢「ひどい、なんてこと言うの?気にしてるのにぃ…」
娘「あたしも、このまま成長止まらないといいなぁ」
嬢「止まっちゃえ止まっちゃえ」
娘「ひどい、なんてこと言うの?」
嬢「うぅ…、ごめん」
娘「でも、お母さん可愛いから、そのままでいいと思うよ?」
嬢「ならその娘も、可愛くないはずないよね?」
娘「いやいや、お父さん似だったらどうするの?」
嬢「女の子はお父さんに似た方が可愛いって聞いたことあるよ?」
娘「でもさぁ、よく考えてみてよ。お父さんだよ?」
嬢「何でー?かっこいいじゃん」
娘「あー、はいはい、そうですねー」
嬢「な、何だよー、自分で聞いといて」
娘「お母さんのは補正入ってるから参考にならないのっ」
嬢「そんなぁ…」
娘「そういえば、明日授業参観だよ?」
嬢「知ってるよ。二人揃って見に行くからね」
娘「えー、いいよぉ一人でー」
嬢「何言ってるのー、せっかくお父さん休みなんだから。それに、あの人一人で行かせたら、不審者だと思われちゃうじゃん?」
娘「あー、それはあるかも」
嬢「そこは否定してあげなよ…」
娘「言い出したのはお母さんだけどね」
嬢「半分冗談だよ?」
娘「半分は本気なんだ」
嬢「まぁ、前科があるからね」
娘「でも、その被害者は今、すごく幸せそうだけどねー?」
嬢「ふふっ、まぁねー」
娘「は、初Hは、いつ頃///?」
嬢「ふぇえ~!?な、なんてこと聞くのー!?」
娘「いやだって、あたしもそういうお年頃だしぃ?興味くらいあるしぃ?誘拐と聞いたら、尚更気になるってゆーか…」
嬢「やだもぅ、思い出すだけでも恥ずかしいじゃん///」
娘「で、いつなの?」
嬢「内緒」
娘「えー、ずーるーいー!」
嬢「あなたがもう少し大人になったら、教えてあげる」
娘「子供扱いしないでよっ。子供のくせにっ」
嬢「子供じゃないもんっ、大人だもんっ。お酒だって飲めるしぃ?免許だって持ってるよ?」
娘「中身も見た目も、子供じゃん」
嬢「い、今のうちだけだよ?後で自分も同じ目にあって、そのまま返してやるんだからっ」
娘「あたしは、少なくとも中身はお母さんより大人だもんっ」
嬢「私の方が大人だもんっ」
娘「いいよ、お父さん帰ってきたら聞いてみるから」
嬢「えぇ~…」
娘「まさか、自信ないの?」
嬢「だって、絶対私の方が子供っていうもん。あの人いじわるだから」
娘「意地悪じゃなくて、ホントのことだからじゃなくて?」
嬢「もぅ、知りません。今日の夕飯はキノコ料理にするからっ」
娘「ちょっ、それは違うでしょ。ずるいよ!」
嬢「もう決めたのー。変更なしー」
娘「卑怯な…」
嬢「好き嫌いはダメなんだよー?」
娘「お母さんは好き嫌いないの?」
嬢「もっちろん。あの人に矯正されたからね」
娘「へぇ、あったんだ。ね、何が嫌いだったの?」
嬢「キノコ類とー、あとトマト」
娘「うわー、キノコ嫌い、遺伝かよー」
嬢「私はもう克服したから、大丈夫だしぃ?」
娘「くっ、覚えてろー、お父さんからお母さんの恥ずかしい思い出、いっぱい聞き出してやるんだからっ」
嬢「そ、そんなのないしー?」
娘「その反応は、絶対あるなー?」
嬢「な、ないないないっ」
娘「ところで、お母さんって身長どれくらい?150あんの?あたしとあんま変わんなくない?」
嬢「確か、146かな」
娘「あ、1㎝負けた…」
嬢「やったー!勝った勝ったー!」
娘「む、娘に勝って嬉しいかっ!?」
嬢「うん」
娘「開き直った!?」
嬢「だって今いくつだっけー?平均より低いんじゃ…」
娘「うわぁぁあ!それ、以上は…」
嬢「あ、もうこんな時間かぁ。そろそろ夕御飯作るね」
娘「いいよ、作んなくて」
嬢「いやいやー、せっかくだから、丹精込めて作るよ」
娘「いいのにー…」
俺「ただいまー」
娘「あ、おかえり、お父さん」
俺「どうした?朝とはえらい違いだな」
娘「へへっ、ちょっと、ね。あ、上着お預かりしますね。お酒は飲む?」
俺「ど、どうした?急に」
娘「え~?いやぁ、ちょっとお母さんのことで、お話が…」
俺「何だ?言ってみ?」
娘「お母さんの、恥ずかしい思い出を聞きたいなぁーって」
俺「何でだよ。一方的に俺が話すんじゃ、不公平になっちゃうだろ?」
娘「だって、今日の夕飯、キノコ料理にするとか言うんだよー?」
俺「あー、まだ根に持ってるのかなぁ…」
娘「お父さん、何やったんだよ…」
俺「ま、色々と。よし、いいだろう。話してやるよ」
娘「ホント?よっしゃー!お父さん愛してる!」
俺「ありがとよ。わざわざそんなくっつかなくてもいいのに…」
娘「いいじゃん別にー」
俺「実は昔、………ってことがあってな」
娘「うんうん」
俺「……ってことになって、……になったんだよ」
娘「ま、マジで?それは…、確かに惚れるわ…。お母さんヤバいな」
俺「だろ?そのおかげで、今お前がいるようなもんだからな、お母さんに感謝しろ?」
娘「そのうちね。お父さん、昔お母さんのこと誘拐したんでしょ?」
俺「あいつから聞いたのか?」
娘「うん」
俺「…そうだ。ま、あいつが可愛いのがいけないんだけどな」
娘「へ?可愛いから誘拐したの?」
俺「あぁ。だからお前も、そのうち誰かに誘拐されちゃうかもな」
娘「えぇ~!?ってかそれって、遠回しにあたしのこと可愛いって言ってる?」
俺「もちろんだ。娘を可愛くないと思う父親が、どこにいるってんだ?」
娘「なんだ、そ、そういうことか…」
俺「まぁでも、俺だったら誘拐してるかもな。あの頃のあいつに、結構似てるし」
娘「そう、なんだ…。お父さんに拐われちゃうのか…。それはそれで、ありかな…なんて」
嬢「ちょっと、何イチャついてんの?」
娘「ななな、何言ってんの?イチャついてないしぃ?」
嬢「ご飯できたよ」
俺「お、ホントにキノコ料理か。ちゃんと克服したんだな」
嬢「まぁね。ほらっ、ちゃんと食べなさいね?」
娘「えぇ~」
俺「ちゃんと食べないと、お母さんみたいになれないぞ?」
娘「関係ないでしょ。お母さんとあたし、あんまり変わんないし」
嬢「そ、そんなことないもんっ」
娘「そうだ、本題。あたしとお母さん、どっちの方が大人っぽい?」
俺「えっ?ん~、見た目ならお母さんかな。中身は、お前だな」
娘「よっしゃー!って、見た目ならお母さんって何でよ?」
嬢「やっぱり私、子供っぽいかなぁ…」
娘「最近あたし、成長してると思わない?胸も大きくなってきたでしょ?」
俺「うん。だから、あいつのが大人っぽい」
娘「えっ?どういうこと?」
俺「お前にはわからないのか?あいつから溢れる大人の色気が!」
嬢「ふぇ?」
娘「大人の色気、ねぇ…」
嬢「な、何よ?」
娘「別にー?」
俺「わからないのか…」
娘「だって、どう見ても子供の色気しか…」
嬢「出てませんっ」
俺「だったら、やっぱりお前の方が子供だよ」
娘「そんなぁ…」
嬢「やったー!」
俺「見た目はな」
嬢「へ?」
娘「中身は…」
俺「まぁ、言わなくてもわかるだろ?っていうか、言ってやるな?可哀想だから」
娘「はーい」
嬢「えっ?ちょっ、ちょっと?私、可哀想…?」
俺「何言ってんだ、可愛いの間違いだよ」
嬢「そっかぁ、えへへっ、ありがと」
娘「扱い手慣れてるなー」
俺「付き合い長いからな」
娘「ちょっと、羨ましいかも…」
俺「えっ?」
娘「えぇっ!?な、何でもないよ~?」
俺「そっくりだな、そういうところ。いいよ、おいで」
娘「な、何でもないってば!…でも、そういうなら、まぁ、いっか///」
嬢「素直になればいいのに」
娘「お母さんと違って単純じゃないんですぅ」
嬢「ちょっと、私が単純脳なバカみたいじゃん!」
娘「みたい?あたしのお父さんから離れてよー。愛情が半分になっちゃうじゃん」
嬢「それはこっちのセリフですぅ」
俺「おいおい、しょうもないケンカすんなよ」
嬢「だってぇ…」
娘「な、泣くの?雷のことといい、泣き虫なのは昔からなんだねぇ」
嬢「なっ!?ちょっと、雷のことって、どういうこと?まさか…」
俺「あの夜のことだけど?」
嬢「もぅ、何で私ばっかりいじめるのー?」
俺「可愛いから」
嬢「うぅ~、またそうやってごまかすぅ~」
娘「お母さんって、昔からこうなの?」
俺「あぁ。可愛いだろ?」
娘「うん、まぁ…」
俺「二人とも、俺の大切な人だ。愛してるよ」
娘「ありがと、お父さん」
嬢「あ、ありがとう///」
俺「で、ちゃんとキノコ食えよ?」
娘「え…」
完