今年もまた、1年ぶりに お盆の時期がやってきたか・・・
・・・おっと、すまんかった。 年寄りの独り言じゃ。 今から詳しく説明するぞい。
実はわしは・・・ すでに死んでおる身。 ここ、冥界の住人なのじゃ。
そして、わしには孫がおる。 タダシと言う名前なんじゃが・・・
その子が小学校に上がってすぐの頃 じゃったか・・・わしは持病を 悪化させ、死んでしまったのじゃ。
死んだ者は全てあの世、つまり 冥界へ行く。残念じゃがそれっきり、現世に関わる事は出来ないのじゃ。
だがしかし、お盆の時期だけは、 死者の魂は現世へ戻ることが 許されておる。
だからわしは、お盆のこの時期に 現世へ行き、孫の成長を確認するのが 何よりの楽しみなのじゃ。
はたして、わしのかわいい孫は どう成長しているじゃろうか・・・
久しぶりに我が家にお邪魔するぞい。 ・・・と言ってもわしは魂だから、 誰にも見えないのじゃがな。
おや、わしの息子と嫁が 話をしておるわい。どれどれ・・・
息子のタダシはどうした? ずいぶん朝早くから出かけて行った ようだが?
コミケっていうイベントがお台場で開催されるから参加する、 って言ってたわ。
なんでも、自分で作った本を販売するんですって。きょうの帰りは夜遅くになるって言ってたわよ。
う~む、参ったのう・・・ わしがこの世に滞在できるのは、 今日の夕暮れまでと決まっておる。
帰ってくるのは夜遅くらしいから、 この家で待っていては、 タダシに会う事はできない・・・
どうやらわしがタダシに会うためにはコミケとやらの会場へ行くしかない ようじゃな。
・・・仕方ない、 行ってみるとするか。
ふぅ、やっとのことで 会場のあるお台場に到着したが・・・ まるで万博のようなすごい人出じゃ。
暑い中、会場の建物の周りを一回りするような行列に何時間も並ばされて、 やっと会場内に入れるんじゃと。
孫のタダシはここで、 いったいどんなことを しておるのだろうか・・・
炎天下、不思議な格好のオナゴを皆、 夢中でカメラ撮影しておる・・・ 実に奇妙な光景じゃ。
コミケは同人誌の即売だけじゃなくて コスプレ広場もあるのだ~! 私も毎回参加しているのだ~!
さて、ようやく会場の建物内に たどり着いたが、孫のタダシは、 一体どこにいるんじゃろうか・・・
しらみつぶしに探すしかないか。 この人ごみの中で見つけるのは 天文学的な確率じゃな・・・・
ううっ、なんて広い会場なんじゃろ それに至る所、人だらけじゃ・・・
あちこち探し回ってたら、 もう夕方になってしまった・・・ わしが冥界に帰る時間も近い・・・
わしのかわいい孫、タダシ・・・ 今年も一目でいいから、 お前に会いたかったぞい・・・
あーあ・・・ けっこう売れ残っちゃったなぁ。
まぁ、でも初参加にしては、 上出来・・・かな?
タダシ、タダシじゃないか! この広い会場で何たる偶然! 会えてうれしいぞい・・・
今回の売り上げは、っと・・・
そうか、お前・・・ 自分で本を作って売ってるのか・・・
一人じゃ何もできなかったお前が、 そんな事をしているとは・・・
爺ちゃん、それだけで嬉しいよ。 ああ、立派になってくれて良かった。
・・・もう冥界に戻る時間じゃ、 仕方ない。また来年、ゆっくりと 元気な姿を見せておくれよ。
それまでは、さらばじゃ。 タダシ・・・
あれ、誰かに話しかけられた ような・・・気のせいかな? そろそろ後片付けしなくちゃ・・・
夜 自宅にて
ただいまー! さて、自分の部屋に行って ちょっと休憩するか・・・
今日は疲れたなぁ・・・ 暑い中、ビッグサイトで一日中 同人誌を売ってたんだもんなぁ。
・・・そういえば、 俺が本を好きになったのは いつの頃だったかな・・・
・・・そうだ、思い出したぞ。 亡くなった爺ちゃんが、俺によく 本を買ってくれたんだった。
内向的で人見知りする性格だった 俺は、爺ちゃんの買ってくれる本が なによりの楽しみだった。
そして俺は、爺ちゃんに 買ってもらった本を読むうちに、 こう思うようになった・・・
「いつか僕も、皆に楽しんでもらえる ような面白い本を書くんだ」 ってね。
まだ同人とはいえ、 きょうはその夢への 第一歩を踏み出した日なんだ・・・
そういや、夏コミの時期はいつも お盆と被るんだったな・・・
・・・そうだ、 明日は墓参りにでも行ってくるかな。 ・・・爺ちゃん、ありがとうよ。
終わり