……朝はいい、新たなる1日の始まり、今日に対する期待、高揚、期待、ワクワク感……そしてこの澄んだ空気。
小鳥の囀りをバックミュージックにし、陽射しをこの身に浴びる。 これだけで朝特有の気怠さが吹っ飛ぶ……この瞬間が俺が好きな時間だ。
このまま空を見ながらコーヒーでも啜ろうか……と思ったが、世の中そんな上手く回らないのが定めだ。
……ガシャーンと言うべきかキャシャーンと言うべきか分からんが、まああれだ窓が割れた音を想像してほしい。
何故かって? それはだな、そこに転がってる大馬鹿が俺の部屋に突っ込んできたからだ。
ふみゅう～……。
こうして、俺の優雅な朝の時間は吹っ飛んだ。 世界はいつでも狂想曲で廻っている……ってそんな事あってたまるか。
いたたたた……着地失敗しちゃったよ……。
そうか、そのまま突き抜けて銀河の果てまで飛んで行ってくれたら良かったのに。
あ、おはよー。 ごめんね、朝から騒がしくて。
爽やかな笑顔、愛くるしい表情を向けてくるのは柊茜(ひいらぎ あかね)と言う。
俺の隣に住んでいるいわゆる幼馴染と言うやつだ。 何?幼馴染が出過ぎだって?何を言っているんだお前は。
昔から俺の身の回りを世話することに生きがいを感じている変な奴で、毎朝必ずこの部屋にやって来る。 毎朝と言ったな、これは平日でも休日でも関係なく襲来だ。
ちなみに忘れてはいけない、こいつは今「部屋の窓をぶち破ってやって来た」という事を。 そのはずなのにピンピンしているという事は身体が丈夫なのだろう。 コイツの身体は鉄鋼で出来ているのか?
やだー、褒めても何も出ないよー?
褒めてない、何でそんな結論になった?
今日も一緒に学校に行こうね!! あ、その前にご飯を食べないと!!
……あ、忘れてた!! まずは制服に着替えないとね!! 私が手伝ってあげる!!
いや待て、それは無い。
イケるイケる!! 「男子は女子に着替えを手伝ってもらってはいけない」なんて法律は無いんだよ!!
法律の問題じゃねぇ、モラルの問題だ。 コイツの頭は何だ?豆腐とかで出来ているのか?角にぶつけて爆発しろ。
常識に囚われてはいけないのだよ。
スイーツ(笑)は黙ってろ。 と言うか……コイツが居ると着替えらんねぇ!! 如何にして追い出すか考えないと……。
もー!!そんなにちんたらしてたら遅刻しちゃうよー!! ほら万歳して!!早く!!ハリーポッター!!
何でこのタイミングで切れた? というか何でハリーポッターって言った? ああ、「ハリーアップ」って言いたかったのか。
……うん、コイツ馬鹿だ。
……うおりゃあああああああぁぁ!!!
おい馬鹿止め……無理矢理服を脱がそうとするな破けるだろ!! そこ引っ張ったら……ぬわーっ!!
俺だ、気分は最悪だ。 誰が悪いのかってのは確定的に明らかなはずだ。
ほらほら!!そんな暗い顔しないで!! 人生は笑って楽しまないと!!
うわぁ、殴りたくなる笑顔でこっちを見てきやがる。 お前に俺の悲しみの何がわかるってんだよ。
……ごめん、さっきのは強過ぎたね。 もうちょっと優しく出来れば良かったんだけど……。
確かにさっきのは痛かったな。 物理的にも心理的にも。 知ってるか?身体のダメージよりも心へのダメージの方が大きいって事を。
「同い年の女の子に着替えを手伝ってもらいましたー」という現実を突きつけられ、想像を絶する悲しみが俺を襲った。
でも!!過ぎた事は仕方ないよね!! 今は前を向いて頑張ろう!!
ポジティブな奴だ、さっきまでのしんみりとしたムードを吹き飛ばしやがった。 最もしんみりとしてたのはコイツだけだけどな。
さあ学校に行こう!! 疲れたら私がおんぶしてあげるね!!
おいこら、俺はお前の弟か何かか? むしろ立場的に逆だろ、コイツは疲れ知らずで無駄にタフだからそんな機会は来ないと思うけど。
出発お新香ー!!
はいはい、キュウリの糠漬けー。 ……本当にコイツの頭はプリンとかで出来ているのか?醤油ぶっ掛けてウニっぽくしてやろうか……。
