がっっっ!!
グレイ(兄)の強烈な蹴りを受けたクマの両足が地面から離れる。
仰向けに体が崩れ落ちそうになる。
ッッッ!!
が、寸前の所で足を踏ん張る。
倒れない。
!!?
グレイ(兄)は驚愕した。
それほどパワーに自信があるわけではないが 完璧に近いタイミングで渾身の蹴りを喉元に打ち込んだのである。
今までの相手ならこれでほぼ終わっていた。
その場に倒れているはずだった。
今での中でおそらくは一番タフな相手。
(クッ・・・だが、問題ねえ!)
倒れてこそはいないが、相当なダメージは負っている。
立っているのもやっとのはずだ。
喉元を蹴られ、呼吸もままならないだろう。
現にクマは顔を歪ませ、立ったまま体を俯かせて咳き込んでいる。
しゃあっ!!
一気に畳み掛ける。
拳、肘、膝・・・
あらゆる攻撃を動かないクマに叩き込む。
何度も、何度も。、何度も。
(たかが、今までより少しタフな相手。ここで一気に決めればいつもの様に・・・)
相手が大の字に倒れ、自分がそれを見下ろす。
いつもの決着の仕方である。
グレイ(兄)の打撃の嵐がクマを襲う。
・・・・ッ!!
徐々にクマが膝を崩していく・・・。
(もう少し、後少・・・)
!!?
突然、グレイ(兄)は自分の足首を強く掴まれる感触を覚えた。
(・・・こいつ!?)
今度は膝ごと抱えられる。
ゆっくりだがグレイ(兄)の体が持ち上げられていく。
グレイ(兄)の攻撃は今だ続いてはいるが、そんな事は関係ないとばかりに、体が高く、高く持ち上げられる。
(た、高っ・・・!!)
グレイ(兄)は戦慄する。
この高さから落とされれば、この高さから叩きつけられれば・・・。
(無事では済まないっ!!)
体が傾く。
(う、受身をっ!)
ドンッッッ!!!!
背中に鋭い衝撃が走る。
自分が叩きつけられた事を実感した。
一瞬、呼吸が止まる。
しかし、思ったよりは強く叩きつけられなかったのか。
背中に多少ダメージはあるが、動けない訳ではない。
反撃がくる前にと素早く立ち上がる。
クマの方を見ると、今だ、喉を押さえ咳き込んでいる。
ゲホッ、ゲホッ・・・ははっ・・鍛えて強くなったつもりではいたんだけどな・・・こういう駆け引きみたいのはまだまだ経験不足みてーだな・・勉強になったぜ、センパイ
ゲホッ・・さあ、仕切り直しといこうぜ。
クマが再び構えを取る。
グレイ(兄)も構える。
・・・・・。
額に汗が滲む・・・。
今度はこっちから行かせてもらうぜっ!
クマが一気に間合いを詰め、左ストレートを放つ。
クッ!!
横へステップしてなんとかそれをかわす。
アブねーな、ギリギリだったぜ、投げられたダメージが残ってんじゃないのかい?
グレイ(兄)は自分でも感じていた。
投げられた直後に比べて痛みが段々と増して来ている事を。
その痛みが、自分の動きを制限していることも。
まだ・・行くぜっ!
次々に飛んでくる攻撃。
ッッ!!
グレイ(兄)はこれをステップを使いかわし続ける。
しかし、かわす度に、動く度に背中の痛みが強くなって行く。
オラッ!
ひゅっ!!
ッ!
これもギリギリだが、何とかかわす。
ガシャンッ!
自分の背中から聞こえる金属音。
あぐぁっ!?
同時に背中に激痛が走り、思わず顔を歪める。
どうだい、センパイ?
クマが両腕を広げる。
!!?
自分の左右にある落下防止用の柵を見てグレイ(兄)は自分がどんな状況に置かれているかを理解した。
ここじゃあ、ご自慢のステップも使えねーな
追い込まれた。
ワザと避けられる様な攻撃を続け、自分を屋上の隅へ誘導したのだ。
・・・・・。
グレイ(兄)の体から汗が吹き出る。
焦りがハッキリと顔色に出る。
(逃げるしかない)
そう思った。
(次は、必ず当てにくる・・・)
(強い攻撃を!)
(それを避けて、周り込み逃げるしかないっ!)
グレイ(兄)は待つ。
クマの渾身の一撃を。
・・・・・。
・・・・・
・・・・・ジリッ
!!
がしっ。
周りこもうとした体をガッチリと腕で掴まれ、押し戻される。
(し、しまっ・・・)
フェイントだった。
クマが口元に笑みを浮かべる。
どんな気分だい、自分の手を人に真似されるってのは?
や、やめっ・・・!!
おおおおら、おらぁっっ!!
グレイ(兄)とは比にならない強烈な打撃が連続で叩き込まれる。
ヒィィィィィィィィィ!!
クマの攻撃が止むと同時に、意識を失ったグレイ(兄)の体が地面に崩れ落ちた・・・。