“僕のパパママ”

ラジオネーム:不憫な子さんからのお便りだ。 ええっとなになに「やっとパパママに会えた」

そうか…よかったじゃねぇか!大事な両親だ!いつまでも大事にしろよ! 次回もお便り待ってるぜ!

僕の家にはママはいない。 いや、いたけれどいなくなったと言った方が正しいのかもしれない。

「どうしてママはいなくなっちゃったの?」と一回だけパパに聞いたことがある。でも、パパは「ママはママじゃなくなった」とだけ答えた。

一体どうゆうことなのだろうか。いつもパパが言った意味を考えていた。

ある日、学校で授業参観があった。パパが見に来たのはうちの家だけ…。僕はどうしてもママに会いたくなって、パパにせがんだ。

「ママに会いたい!」って。でも…「あの人に会ってはいけません!」ときつく言われた。その時分かったんだ。

「ママはママじゃなくなった」という意味が。「ママ」は家族でない「あの人」になってしまったんだと…。

それから、僕は自分の世界に閉じこもるようになった。ただひたすらに小説を書いて、書いて、書いて、書きまくった。

だって、何かに没頭していれば余計なことを考えずに済むからね。

――あれから2年が経った。

僕は小学5年生。 相変わらず、小説を書き続けている。

前と違って、現実から目を背けるために文章を書いているのではない。小説を書いているうちに、本当に文章を書くのが好きになったからだ。

去年の暮れから、通信の作文講座を始めた。その添削講師(以下赤ペン先生)がとても優しくて、余計やる気になった。

それからしばらく経ち、添削課題とは別な、赤ペン先生独自の課題が送られてくるようになった。僕があまりに熱心にやっていたからだろうか。

その課題はいつも決まっていて、学校のことや家のこと…そんな僕の日常のことを書くのが課題だった。

でも、添削課題よりこっちの課題の方が書いていて楽しかった。だって、マ…お母さんとお話ししてるみたいだったから。

しかし、楽しい日々はそう長く続くものではない。作文講座の講座期間は1年間。そして、今月がその最後の月なのである。

僕は悩んだ。 この課題を提出してしまえば、もう赤ペン先生との繋がりがなくなってしまうのだから…。

テーマ自由の提出課題。 僕は書きかけのまま、机の中に押し込んだ。

机の中に押し込まれた提出課題を見つけたのは、それから約1年後のことである。

既に小学校は卒業し、もうすぐ中学生になろうとしている頃だ。

本当に僕はバカな奴だ。課題と一緒に大事な思いまでもしまったままにするなんて。

提出…してみようかな。書きかけだけど…。いや、あのときのままだからこそ、提出する意味があるのかもしれない。

結果は分かっている。 でも…もうやらずに後悔するのは御免だ!

ラジオネーム:どんぐりさんからのお便りだ。 ええっとなになに「探してた指輪が見つかった」

おお!よかったじゃねぇか!次は無くさねぇように、ちゃんと大事にしておけよ! 次回もお便り待ってるぜ!

提出課題はすぐに戻ってきた。案の定、そっくりそのまま。

でも、課題と一緒に一通の手紙が届いた。差出人は「桐生」とだけ書かれている。僕はこの名前に見覚えがあった。そう、赤ペン先生だ。

中を開けると、細長い便箋が裏になって出てきた。 そこには住所と電話番号が、そして表には

「ごめんねタカシ。元気にしてる?」とだけ書かれていた。

僕は一瞬で理解できた。そう…あの優しかった赤ペン先生は、僕のお母さんだったのだ。

僕はすぐに連絡を取り、今日これからお母さんと会う約束をした。 駅前のカフェに17時。

そして、母に会うときがやってきた。

ここがそのカフェだ。 やっと…お母さんに会える…

いらっしゃいませー! お客様はお一人様ですか?

あの、17時にここで待ち合わせしてるんですが…

ハイ、待ち合わせですね。 お連れ様ならあちらでお待ちですよ。

タカシ!!

僕の名前を呼ぶ懐かしい声が聞こえた。ああ、やっと会えた。

あの優しかったお母さん――

――とは似ても似つかない、ゴリラがそこには立っていた。

上腕二頭筋、僧帽筋、チラリとのぞく大胸筋…パッと見ただけでも、そのどれもが無駄のない筋肉であることが分かる。さすがゴリラである。

タカシ!!

殺すぞ!! と思わず叫んでしまいそうになったが、なんとかこらえた。そしてすべて理解した。

「ママはママじゃなくなった」ってこうゆうことだったのだ。

タカシ…あのときみたいにママって呼んで!

こいつはママでいいのだろうか…どちらかと言えばパパなのでは?そんなことを考えていたら

ピャマ…(と噛んでしまった)

ありがとう。ママ嬉しいよ。

あ、伝わった。

それから長い時間このおっさ…ママと過ごした。名前は優香から豪三郎という猛々しい名前に変わっていた。

ほのかに香る優しいママの香りは、今はほのかに加齢臭へと変わっている。

くせぇし、うぜぇ、このパパのようなママ…パパママだが、今は会えてよかったと思っている。

ま、会えたからといって、僕らの家庭が変わるわけじゃないのだけれどね。

でもようやく、止まっていた時が動き出した、そんな気がしたんだ。 これから一歩ずつ進んでいこうと思う。

そうだ 今度、あの書きかけだった課題をママに提出しようと思うんだ。

「大好きなΛママへ」      パパ 今ならきっと、続きを書けそうな気がするから。

ラジオネーム:不憫な子さんからのお便りだ。 ええっとなになに「やっとパパママに会えた」

そうか…よかったじゃねぇか!大事な両親だ!いつまでも大事にしろよ! 次回もお便り待ってるぜ!              おわり

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Posted at 2012/09/30 12:46 Viewed 22 times

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