虹村と相沢。 二人が対峙する。
(大きい・・・)
虹村が相沢を見上げ改めて確認する。
おそらく170cm代後半には達しているであろう。 女性にしてははかなりの大柄である。
対して虹村は160cmと少し、リーチの差は大きい。
ほらよっ!
相沢が拳を繰り出す。
ごうっ!と唸りをあげそうな迫力のある拳。
しかし、大振りなパンチである。少しでも格闘技を心得ていれば容易にかわせそうな・・・。
もちろん虹村は難なくパンチをかわす。
続けざまに相沢が2発目を繰り出す。
虹村はこれをかわしつつ、相沢の腿辺りに蹴りを打ち込む。
しなりのある良い蹴りである。
しかし、全く問題にしてないのか、蹴られた足を軸に相沢が前蹴りを放つ。
虹村が後方へ飛びつつこれを避ける。
二人の間に少し距離が出来る。
虹村は緊張する。
もし、相沢の攻撃がまともに自分当たればと。
1発でも耐えられないかもしれない。
仮にパンチを腕で防御しても、おそらく自分の細腕では防御した腕自体を折らてしまうだろう。
まともにでなくとも体に相当のダメージが残る可能性は高い。
(あのバカクマならともかく・・・)
自分の体には1発たりともに触れる事は許されない。
相沢が距離を詰め、攻撃が再開される。
繰り出されるパンチや蹴りを次々とかわして行く虹村。
時折、蹴り等で応戦するものの相沢は全く効いたようには見えない。急所なども簡単に打たせてはくれない。
攻撃や防御は素人に近い、体格差はもちろんあるが、路上での経験は多いのだろう
荒削りではあるが実戦的な動き、そしてセンスもある。
真面目に技を学べばもっと強くなるかもしれない、と虹村は思う。
おらっどうしたぁ!!
だが、戦いの経験で言えば虹村も負けてはいない。
そして体格差を補う技術が自分には叩き込まれている。
路上の経験が多いだけのデカイ素人には負けていられない。
(誘い込むっ!)
虹村がその場で腰を深く落とした。
はっ、馬鹿がっ!
それを機と見た相沢が拳を打ち込もうと腕を振り上げる。
が、
その腕が振り落とされる事はなかった。
がふっ・・・!!
相沢の鳩尾に、虹村の拳がめり込んでいた。
拳の打ち方を知らない相沢ゆえにパンチを打つ瞬間に一瞬体が開き無防備になる。
虹村はそこを狙ったのである。
相沢の膝が崩れる。
虹村のちょうど良い位置に相沢の顔が下りて来る。
はっっ!!
躊躇なく鋭い蹴りを相沢の顔面へと打ち込む。
ッッ!!
更に顔面へ蹴りを打つ。
更に蹴る。 蹴る。
計4発。
相沢の体が大きく仰け反り背中から地面へと倒れた。
・・・・・。
起き上がってこない。
・・・ふぅ。
一息つき、乱れた髪や衣服を整える。
と、
虹村の顔へ目掛けて何かが凄い速さで飛んで来る。
!?
虹村がなんとかこれをかわす。
虹村が後ろを見ると、少し遠くに角材が転がっていた。
これを投げつけられたのか。
視線を元に戻すと、相沢がちょうど立ち上がろうとしていた。
鼻や口から血が流れ、ダメージの為やや足取りは不安定なものの、まだ闘争心は失われていない事が見てとれる。
・・・タフね。
ヤワな鍛え方はしてないのさ・・さあ、続きだっ!
べっ、と口に溜まった血を吐き再び構えをとる。
しかし、虹村は構えない。両腕をだらんと垂らしたままだ。
おいっ、構えろよっ
・・・これ以上やっても無駄よ、今あなたでは私に勝てない・・・
はっ、言ってろっ!
相沢が駆け出す。
そして、その勢いのまま拳を繰り出す。
虹村が横に少し動いただけでそれをかわす。
チッ!
今度は振り返りながらの裏拳。
ッ!
これもスウェーでかわす。
そんな振り回すだけのパンチじゃあ、いくらやっても当たらない。今までがどうだったか知らないけれど。
少なくとも私には・・・。
このやろうっ!
相沢が拳を振る。
怒りにまかせた拳を何度も何度も。
だが、虹村はかわす。完全に相沢のパンチを読みきっている。
そして、懐に入り込み顎に向かってアッパー気味に掌底を打ち込む。
がっっ!
相沢の顔が天を向く。膝がガクガクと震える。
虹村が今度は思い切り相沢の脚を払った。
すでに力が抜けかけている相沢はそれだけで簡単に尻餅をつく。
!?
相沢の片腕に重量がかかり、次いで痛みが走る。
いつの間にか虹村に腕を捕られていた。
腕ひしぎ逆十字固めの形である。
腕がほぼ完全に伸びきってしまっている。
みしっ、みしっ、と間接が軋み、痛みからか相沢が呻き声を漏らす。
ぐぅ・・・。
後少し力を込めるだけで腕は折れる、解いてほしかったら・・・
へっ、折れよ。
腕が使い物にならなくなるかもしれないのよ?
やってみろっ・・・ぬぅぅううぅぅぅうっっ!!
相沢が腕に力を込める。
(な、なんて馬鹿力っっ!)
虹村が脅しの為やや軽めに技をかけていたのもあるが、ほぼ完全に極まった間接技からは逃れるのは不可能である。
だが、現に今腕力だけで虹村の技が解かれようとしている。
力を込め続けたままゆっくりと相沢の体が起き上がる。
そして虹村に技を極められたまま走り出す。
その勢いのまま川原の壁へと体を突っ込んだ。
うぐっっ!!
ぶつけられた衝撃で強制的に技が解かされ地面に転げ落ちる虹村。
だが、すぐに起き上がり体制を整える。
くっ・・・でたらめね、こんな方法で技を解くなんて。
はっ、言ったろ。鍛え方が違うってよ・・・まだまだ、ここからだぜ。
ナンカアッチデケンカシテルゾ! ダレカケイサツヨベヨ!
ここまでね・・・。
ああっ!? もう関係ねえよ、さっさと来いっ!!
コッチダ! ダレカトメロヨ! オマエガヤレヨ!!
私はあなたと違って融通のきく立場じゃないのよ・・・。 出来ればこれっきりにして欲しいものね。
それじゃあ・・・。
なっ!! おいっ!待てっ、逃げんなっ!!
戻って来い!! にじむらああああああ!!!