『外郎売りその壱』

拙者親方と申すは、 お立ち会いの中に、 ご存知のお方もござりましょうが、

お江戸を発って二十里上方、 相州小田原一色町を お過ぎになされて、

青物町を登りへおいでなさるれば、 欄干橋虎屋藤衛門 只今は剃髪致して 円斉となのりまする。

元朝より大晦日まで、 お手に入れまする此の薬は、 昔ちんの国の唐人、

外郎という人、わが朝へ来たり、 帝へ参内の折から、 この薬を深く籠め置き、

用いる時は一粒ずつ、 冠のすき間より取り出す。

依ってその名を帝より、 「とうちんこう」と賜る。

即ち文字には 「頂き、透く、香い」と書いて 「とうちんこう」と申す

只今はこの薬、 殊の外世上に弘まり、 方々に似看板を出し、

イヤ、小田原の、灰俵の、さん俵の 炭俵のと色々に申せども、 平仮名をもって

「ういろう」と記せしは 親方円斉ばかり。

もしやお立会いの内に、 熱海か塔の沢へ湯治へお出でなさるか、

又は伊勢御参宮の折からは、 必ずお門違いなされまするな。

お登りならば右の方、 お下りならば左側、

八方が八つ棟、表が三つ棟玉堂造り、 破風には菊に桐のとうの 御紋を御赦免あって、

系図正しき薬でござる。

その2に続く

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公開日 2013/05/12 20:43 再生回数 8

作者からのコメント

ういろううり、と読みます。これをスラスラ読めれば貴方の滑舌はかなり良い方でしょう!と演劇部出身が言ってみる。

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