テツ「なぁ、ハルは短冊に願い事書いたのか?」
ハル「お前書いたのかよ。俺は書かねぇぞ?」
カナ「えっ、書かないの?」
ユキ「どちらかというと、てるてる坊主の方がいいんじゃない?」
テツ「何っ!?雨降るのか?」
ハル「あー…、なんか雲行きが怪しいな」
ユキ「今年も、二人は出会えないのかな…」
カナ「そんな、可哀想だよ!」
ハル「たかが星の話で、よくそんな盛り上がれるな」
ユキ「現実に置き換えてみてよ。もし、愛する人に一年に一度、しかもその日が晴れていないと会うことができなかったら、辛いでしょ?」
ハル「俺には愛する人なんていないから、実感湧かねぇな」
カナ「そういえばさ、ハルは何で天文部入ったの?」
テツ「確かに、星に興味ないくせに、何でだよ?」
ハル「な、何だっていいだろ」
ユキ「そうだよ。ハルが入ってくれたから、天文部が廃部にならずに済んだんだもん。いわば、天文部の命の恩人なんだよ?」
ハル「だから、理由なんて関係ない。いるだけでもいいってか?」
ユキ「ち、違うよ、そういうつもりじゃ…」
テツ「そうだぞ、ハル。あんまりユキをいじめるな」
カナ「本当、何で入る気になったんだか…」
ハル「…ちょっと外出てくる」
テツ「あぁ、時間までには戻れよ?」
ハル「わかってる」
カナ「悪気はないのはわかるんだけどねぇ…」
テツ「ちょっと口が悪いだけだろ?実際、いいヤツだよ、あいつ」
カナ「へぇ、例えば?」
テツ「俺が宿題忘れた時に、写させてくれるし、授業で指されてわからないとき、ヒントくれるし」
ユキ「それは…、いいの?」
カナ「なるほど、確かにいいヤツだ」
ユキ「…二人とも、宿題は自分でやりなさい?」
カナ「とかいいつつ、あたしの宿題手伝ってくれるユキも、いいヤツだよね?」
ユキ「もう、これからは自分でやってもらうよ?」
カナ「ごめんなさい、調子に乗りすぎました」
ユキ「人を頼ることを前提としないの。そんなことしてたら、堕落していくだけだよ?」
テツ「エンジェル様のお声をいただいた気分だな…」
カナ「右に同じ…」
ユキ「まったく…、私も少し席を外すね」
カナ「あ、時間までには…」
ユキ「わかってるよ。必ず戻ってくるから」
テツ「さすがはエンジェル様だ。部員の鑑だぜ。そういや、天文部の部長って誰なんだ?」
カナ「あたしだよ。…なんか文句あるわけ?」
テツ「いやぁ、全然そんな感じしないなぁって」
カナ「わ、悪かったねっ。部長らしくなくてっ」
テツ「いえ、なんかすいません…」
・・・・・・
ハル「星に興味ないくせに、か。別に、そういう訳じゃないんだけどな…」
ユキ「あ、ハルー!こんなところにいたんだ」
ハル「ゆ、ユキっ!?どうした?」
ユキ「あの、さっきのこと、気にしてる…?」
ハル「あぁ、部室でのことか。全然気にしてないよ」
ユキ「本当?よかった。…ねぇ、天文部に入った理由、聞かせてもらっても、いい?」
ハル「はぁ…」
ユキ「ごめんね。でも、気になっちゃって…」
ハル「ユキに誘われたからだよ」
ユキ「えっ?」
ハル「廃部になっちゃうから、天文部に入ってほしいの!お願い!なんて言われたら、入らない訳にもいかないだろ?」
ユキ「あ、ご、ごめんね。断りにくくしちゃったみたいで…」
ハル「いいよ。俺の意思で入ったんだから。それに、ユキとは腐れ縁みたいなもんだしさ」
ユキ「そうだね。幼稚園の時から一緒だったよね」
ハル「あぁ。あの頃は、しょっちゅうケンカもしてたよな」
ユキ「覚えてる?幼稚園の頃に、私にキスしたこと。もちろん、頬にだけどね」
ハル「なっ、き、記憶違いじゃねぇのか?」
ユキ「なんだ、覚えてないんだ。私は忘れてないのに…」
ハル「いやしかし、あの時の暴力女がこんなんなるとはねぇ…」
ユキ「ど、どういう意味?」
ハル「人は見かけによらないんだなってさ」
ユキ「ますます意味がわからないよ…」
ハル「そろそろ部室戻るか。機材の準備もあるだろうし」
ユキ「そうだね。二人も待たせてるし」
・・・・・・
カナ「あ、おかえり…」
テツ「おやおやおや、二人ご一緒ですか…」
カナ「まさか、二人っきりでイチャイチャしてたんじゃ…」
ユキ「なっ、してないよっ、そんなこと!」
ハル「お前らこそ、俺たちがいない間は二人っきりだっただろうが」
ユキ「そうだよ、何してたの?」
カナ「あたしがこいつと?ないない」
テツ「実は、愛の営みってやつをな…」
ユキ「ふぇっ!?///」
カナ「し、してないっ!何勝手なことぬかしてるわけ?///」
ハル「何でもいいからさ、早く望遠鏡組み立てようぜ?」
テツ「さすがはハル。部員の鑑だな」
ハル「鏡筒は別で持っていって、上で組み立てよう。ネジと、それから懐中電灯も忘れるなよ?」
ユキ「了解ですっ」
ハル「それからテツ、早見盤は必要か?」
テツ「うーん、あって損はないけど、みんな大体の星座は覚えてるもんな…」
カナ「……」
ハル「カナ、どうした?」
カナ「いや、なんか、一番天文部員らしいよね、ハル」
ユキ「それがハルだもん。そうじゃなきゃ、天文部には入らないよ」
テツ「そうだな。じゃ、早見盤はいらん!」
カナ「えー」
テツ「まさか、覚えてないのか?部長なのにぃ?」
カナ「ムカつく…っ!」
ハル「じゃあカナのために、テツが早見盤になればいい」
テツ「は?」
ユキ「いいね、それ。じゃ、私はハルの早見盤になるね」
ハル「え?」
ユキ「だって、実はまだ覚えてないでしょ?」
ハル「バレてたか…」
ユキ「当然だよ」
カナ「テツが、あたしの早見盤に…?」
テツ「何だよ、嫌か?」
カナ「いいわ、くたばるまで使い込んであげる…」
テツ「何か寒気がしたんだが、気のせいか…?」
ハル「いや、気のせいじゃないな…」
・・・・・・
ハル「こんな時間まで学校に残ってたの初めてだよ。しかも屋上になんて」
ユキ「うちの学校は、屋上からでもよく見えるから、天文部に開放してくれるんだよ」
テツ「それにしても、晴れてよかったな。一時は中止かと思ったぜ」
カナ「本当。月もないし、天の川も綺麗ね」
ユキ「それじゃあ、早速…」
カナ「そうね」
ハル「床硬いな」
テツ「しょうがねぇよ。シート敷いてるとはいえ、寝転がるように設計されてないだろうから」
ハル「そりゃそうだろうな」
カナ「今年は、会えたんだね。あの二人」
テツ「そうだな…」
ハル「……。…あのさ、ユキ」
ユキ「なぁに?ハル」
ハル「俺は、ユキが好きだ!付き合ってくれないか?」
ユキ「ふぇえっ!?///」
テツ「………っ!?」
カナ「………」
ユキ「え、えっと、その、私もね、ハルのこと、好きだよ。ぜひ、付き合いたいな///」
ハル「ありがとう、ユキ」
ユキ「ハルも、ありがとう///」
テツ「おいおい、たまげたな。これでフラれてたらめちゃめちゃカッコ悪いぜ?勇者だな、ハル」
ハル「そんなことねぇよ。実はずっと前から、告白しようって思ってたんだ。あの二人が会えたら、俺も…ってな」
ユキ「でも、毎年この日は生憎の悪天候だったし…」
ハル「だからさ、今日までかかっちまったんだ」
テツ「何だよ、だから天文部に入ったのか?」
ハル「まぁ、それもあるな」
ユキ「カナ…?」
カナ「…あのね、テツ。あたしも、言うね。テツ、大好き!」
テツ「……。そういうことは、早く言えよな?ハルの真似したみたいで、カッコ悪いぜ?」
カナ「わかってるよ…。でも、ハルに触発されたのは事実だし、今言わなかったら、絶対後悔すると思って…」
テツ「まったく…。俺でよければ、彼氏になるぜ?」
カナ「テツ…!大好き!」
テツ「俺も大好きだ、カナ」
ハル「これは驚いたな。あのお二人さんもビックリだぜ」
ユキ「よかったね、カナ」
カナ「うん!」
ハル「ユキは、知ってたのか?カナの気持ち」
ユキ「うん。親友だからね、相談を受けてたんだ」
ハル「なるほど、余程信頼されてるんだな。さすがは俺の彼女だ」
テツ「どうだ、ハル。俺の彼女、可愛いだろ?」
ハル「お前バカじゃないのか?俺の彼女より可愛い生き物が存在するわけねぇだろ?」
テツ「チッチッ、甘いな。それがな、存在するんだよ」
ハル「何だと?俺の彼女こそ、可愛さの頂点だ」
テツ「いーや、俺の彼女だ」
ユキ「も、もう、ハルったら…///」
カナ「なんつー争いよ…///」
ハル「それにしても、俺の願いは、ちゃんと叶ったんだな…」
ユキ「何を願ったの?短冊にも書いてなかったよね?」
ハル「恥ずかしいから教えない」
ユキ「ず、ズルいよ、そんなのー」
ハル「ははっ、そのうちな」
ユキ「これからもよろしくね、腐れ縁さん」
ハル「あぁ、よろしく、俺の初恋」
完