『あに、いもおと』

「最近、私はいつも機嫌が悪い」

「理由ははっきりしている。それは ずばり――」

「この男のせいだ」

「まぁ、私のお兄ちゃんなんだけど……」

「兄妹仲は決して悪くなかった。……はずなのに」

「最近になって突然私のことを無視するようになったのだ」

「今だって私がこうやって一人でブツブツ喋ってるのに、気にも掛けずテレビ見て大笑いしてるし……」

「本当に何だっていうのよ! 頭くるわね!」

「ねぇ! 聞こえてるんでしょ!? お兄ちゃん!!」

「……何なのよ、もう」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「バラエティの次はスポーツ」

「……昔から思ってたけど、どんだけテレビ好きなのよ」

「……今はテレビよりも、もっと他に見るべきものがあるんじゃないの?」

『ゴール!!! フリーキック決めたー!!!』

「嬉しそうな顔しちゃってさ……」

「……昔は私にもそういう顔、してくれたのに」

「! そうだ、ちょっとイタズラしちゃお~」

『さぁ、相手チームからのスタートで――』

「多分影分身の術~」

「説明しよう! これは高速で反復横跳びをすることによって、あたかも私が分身しているような錯覚を相手に引き起こさせる」

「――という体でひたすら兄のテレビ視聴を邪魔する、彼への純粋な怒りから生まれた術なのだ!」

「やーい! テレビ見えないだろ~ バーカ! お兄ちゃんのバーカ!」

「テレビ魔神~。悔しかったら力ずくで退かしてみろ~」

「…………」

ピッ――

『おーっと!? ゴール前にセンタリング!! さっきとは一転してピン――』 ブツッ――

「…………」

「…………」

「……ハァ」

タッ タッ タッ タッ タッ――

タン タン タン タン タン――

「……何なのよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ねえ! お兄ちゃん! 待ってってば!」

「…………」

「もう! さっきから謝ってるじゃない!」

「…………」

「――ホントにごめんなさい!」

「…………」

「だって私――」

ピタッ

「!? お兄ちゃん……?」

「…………」

「え? 何……? どうしたの急に……?」

「…………」

「え? え?」

「…………」

「…………お兄ちゃん……?」

「…………」

「え!?」

「……えぇ!? 何よそれ!!」

「……もう! お兄ちゃんの、バカ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「――ハッ!?」

「……何で今になってあんな事……」

コンコン――

「ねぇ! 寝ちゃってるの?」

「……ごめん、今起きた。なーに母さん?」

「お母さんいつもの所行って来るけどアンタどうする?」

「……俺は……いいよ……」

「……そう」

「……アンタ大丈夫? ちゃんと立ち直れる……?」

「…………」

「大丈夫だよ。……母さんの方こそ、大丈夫なの?」

「……大丈夫、とは、とても言えないわね……。だからこそ、こうやって何時(いつ)になってもお参りに……」

「……そっか」

「……アンタは、アンタだけはしっかりね!」

「……分かってるよ。……時間はかかると思うけど、ね」

「……じゃあ、お母さん、行って来るから」

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「? 変なの。お母さんもお兄ちゃんも何の話してるの?」

「…………」

「……で、また無視するしさ……」

「ホントに何だってのよもう!」

「……なぁ、母さん」

「……声がさ、聞こえるんだよ」

「……そんなわけ、無いのにな……」

「……っ! ……っ!」

豈、妹音(あに、いもおと)

~FIN~

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公開日 2012/04/21 01:18 再生回数 43

作者からのコメント

3作目。今度はちょっとシリアス(?)。でも、読み返してみたらかなり無理やり&分かり辛くなてました……orz。……人間には「想像力」が必要だと思うんです!(`・ω・´)キリッ ←(爆)

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