『【7月第三週】たとえば、こんな七夕』

帰り道、駅前を通りかかると、とんでもない光景を目撃した。

笹に吊るされたカラフルな色の短冊を一枚一枚毟っていく女。

な、なにしてんだよ!

僕は止めざるを得なかった。何故なら、この女は・・・。

皆さん、すみません!お騒がせしてしまって・・・。

ちょっと、止めないでよね!野川!

この女は、僕の妹だからだ。

お前何してんだよ!こんなことして、何になるって言うんだ!

うっさいなぁ・・・野川には関係ないでしょ。

妹だが、こいつは僕の事を「野川」と名字で呼んでくる。

僕は、お前の・・・アマノの兄貴だぞ。関係ないもんか。

偉そうにしないでよ?だいたい、あんたを兄貴と認めた覚えはないわよ?

僕らは異母兄妹だ。

ある日父親が急に「お前の妹だ」と家に連れてきたのが、このアマノだった。

そして、年もそう変わらない僕らは、1つ屋根の下で暮らすことになったのだが・・・。

お前自分が今なにやってたのか分かってんのか?それは、皆の気持ちを踏みにじる行為だ。

私の願いの1つも叶えないで、何が七夕よ!

こうゆう感じで、いつも自分勝手に暴れ回って、他人に迷惑を掛ける、最低な妹だ。

いつの年もそうだった。私の願いは1つも叶ったことがない。

お父さんはいつまで経っても帰ってこないし、お母さんの病気は一向に良くならないし・・・。

そして気付いたの。きっと願い事が沢山あるから、私のが埋もれて気付かれなかったんだって。

だから皆の短冊を捨てて、この笹には私の願いだけが吊るされてれば、間違いなく気付いてくれるって!

お前、本気でそんなこと思ってんのかよ?

ちょっとついて来いよ。

どこよ、ここ・・・?もう随分薄暗いっていうのに・・・。

この町で一番、空に近い場所だ。

ここで短冊を吊るせば、お前の願いは間違いなくあの星に届くだろう。

アマノ。あそこの笹にお前の短冊を吊るしてこい。

な、なに言ってんの?あんな断崖絶壁のところなんかに行ける訳ないでしょ!?

何かを叶えるには、それ相応のリスクが伴うものだ。

だからって、女の子にあんな危険なところに行かせるだなんて、ヒドイ男ねアンタ!

そうよ・・・だったら、あんたが代わりに行ってきなさいよ?私の兄貴なんでしょ?

可愛い妹のためだもん?きっとやってくれるよね、お兄ちゃん?

あれ~。もしかしてビビってんの?男のくせに?だらしない兄貴~。

お前の願いは・・・簡単に誰かに押しつけられるような安い願いなんだな?

そんな安い願いなら、その辺の雑草にでも結びつけておくんだな。

ちなみに、俺の短冊は既にあの笹に結びつけてある。

なにせ、お前の願いと違って、決して安い願いではないからな?

ほら、どうした。選べよアマノ。願いを叶えたいんじゃないのか?

や、やだよ・・・怖いもん。だって、落ちたら死んじゃうよ?

死なせるもんか。その時は全力で俺がアマノを護ってやる。

お兄・・・ちゃん・・・。

だからこれだけは知っててくれ。世界はお前が思ってるほど、絶望に溢れているわけじゃない。

さぁ、一緒に行こう。 お前の願いを叶えるために。

・・・うん。

星は遠い。ものすごく遠い。

きっと、宇宙から見れば、私なんてちっぽけな存在。

けれど、今は私のことを見てくれる人がいる。

私が今日手に入れた、ゴツゴツしてて大きくて、温かみのある星。

この星を、手離したくない。

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公開日 2013/07/07 18:32 再生回数 18

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