“ハッピーバレンタイン”

今日から始まったバレンタイン企画。

近頃なにかと評判の某ファーストフードの施策にあやかって、 ウチもカップルのお客様限定で無料でサンデーを提供することに。

お、さっそくお客様だぞ。

いらっしゃいませ~。

2人「せ、せーの・・・」

「ハッピー・・・バレンタイン・・・。」

え、なんだって?

だ、だからぁ、ハッピーバレンタイン・・・。

・・・・・・?

女「・・・まーくぅん、なんか聞いてた話と違うみたいなんだけどォ」

男「おっかしぃなー?カップルで一緒に来たら無料でサンデー食べれるって聞いたのになぁ」

お客様、ご・注・文・は?

・・・えーと、それじゃぁこの「店長特製濃厚しっとりチーズケーキ」でお願いします。

あいにく店長は席を外してまして、代わりに「3分ぽっきり!私特製お手軽チキンラーメン」で宜しいですね?

言い訳あるか!

「なんだこの店!」カラン コロン

ふぅ・・・。

カップル見てると、いらつくわぁ。

柳くん・・・、カップルのお客様がお冠で店から出てきたんだけど・・・?

店長・・・。

気持ちは分かるけど、この施策は上からのお達しである以上、いちクルーとしてのあるべき接客をだね・・・。

しかし店長。

この施策の「カップル」の定義って、なんなんですかね?

恋人同士、夫婦はともかく、別に「2人組」が成立すればいいんでしょう?

ってことは、最悪男同士でもOKってなりませんか?

私、ホモくさい職場で愛想よく笑顔振舞えるほど肝が据わってないんですけど。

あ、愛にはそれぞれ色々な形が・・・。

サンデー目当ての厨房男子らが冷やかし半分でやって来たり、

抱き枕抱えたムサいおっさんが「俺の嫁!」って息切らせながらやって来たり・・・、

そんなので店が大勢溢れるなんて、本来のこの店の品格が損なわれると思いませんか?

・・・・・・。

店の品格と、お客様の価値を同列にしちゃダメだろう。

店の品格がどうこうという話は、いつだって我々クルーの責任だ。お客様は関係ない。

それに君は「カップル」について、なにやら穿った視野を持ち合わせているようだが、

一言カップルといえど、愛だけでなく、友情、信頼、絆・・・その他さまざまな繋がりで出来ている。

君が気持ち悪がる男同士のカップルや頭の中にしか存在しない相手とのカップル、 そんな世間一般から見れば認められ難いマイノリティーな関係だろうと、

たとえサンデー目当ての即興のカップルを相手にしようとも、

我々クルーは、目の前のお客様の価値を決めつける権利はどこにもないのだ。

店長・・・。

スミマセンでした。私、憂さ晴らしがしたかっただけで・・・。

・・・今日は、バレンタインデー。

私が聞くのも野暮ったいかもしれないが、君にもチョコをあげる予定の相手がいるんじゃないのかね。

そ、それは・・・。

カラン コロン

お客様が来たようだぞ。

い、いらっしゃいませ~。

よー、柳っちー。

ほ、本田センパイ!?

心中察するぞ?独り身のお前には今日はさぞかし苦痛だろうと思って、ねぎらいに来てやったぞ。

なにが悲しくて、いちゃいちゃしてるカップルのオーダー取らなきゃいけないんだよって話だよな?

あはは、まったくその通りですよね・・・。

ところで本田センパイ、その両手の荷物は・・・?

あぁこれ?クラスメイトや後輩たちからもらった、って言うか押し付けられたやつでね。参った参った。

全部それチョコじゃないですか。なんですか、先輩だって私のこと冷やかしに来たんでしょう?

いや、別にそうゆうつもりじゃ・・・。

はいはい。分かりましたから、そろそろ注文よろしいですか、お客様?

・・・・・・。

・・・・・・はぁ。

柳くん、今日はもう上がっていいよ。

店長?

君がいつまでもそうゆう接客態度なら、これ以上お客様の前に立たせるわけにはいかない。

そんな・・・私だって好きでこんな・・・。

とにかく、今日はもう帰りたまえ。

・・・・・・。

スミマセンでした・・・。

・・・ふぅ。

こんなたくさんチョコを貰ったって、本命の相手の子からのじゃないと、僕はハッピーになれないよ。

って言っても、他人から見ればなにを抜かしているんだと怒られてしまうでしょうけれど。

その本命の相手の子も、僕の軽率な言動で気分を悪くさせてしまったようだし・・・。

・・・・・・。

・・・それでは、店長。お先に失礼します。

待ちたまえ、柳くん。

ハッピーバレンタインッ!

え?

只今当店では、カップルのお客様に特製チョコサンデーをプレゼントいたしております。

カップルって、店長・・・。

一体、誰のことを言ってるんです?

そりゃ、もちろんお客様方のことを申し上げております。

お客様方って・・・?

ちっ、違いますよォ店長!?本田センパイとは、学校の部活の先輩であって、それ以上の関係なんかじゃ・・・。

カップルではない、と? それは大変失礼致しましたッ!

大変お似合いのお二人だとお見かけして、つい先走ってしまいました。申し訳ございません。

もうやだなぁ。店長ってば、からかわないでくださいよ!

私なんかが、先輩とカップルになれるだなんて・・・。

・・・・・・。

やったー!超ついてるじゃーん。

せ、先輩?

まさか柳っちの陣中見舞いに来てみれば、無料でチョコサンデーが食べられるなんて!

あ、あはは・・・。それはよかったですね。まぁ、店長の勘違いなんですけど。

チョコサンデーだけじゃなくて、こんな可愛い彼女もついてくるだなんて、僕は幸せだなァ。

ほんと、そうですね・・・。

・・・?

・・・可愛い彼女、って、誰のこと言ってます?

そんなの決まってんじゃん。

柳っちのことだよ。

ちょ・・・っ、先輩まで店長の勘違いに乗っからなくていいですからっ!

勘違いなんかじゃないよ。

だって、この2年間ずっと、柳っちに募らせてきた僕の想いは、ウソ偽りなんかじゃないから。

2年間って、まさか・・・。

2年前・・・。入学したての君が部室の扉を開けて、元気よく入ってきたあの瞬間。

・・・僕の恋が、始まっていました。

・・・先輩がそんなきざったらしいセリフ使っても、似合わないですよ。

そうゆうこと軽はずみに口にして、私はともかく、他の女の子が勘違いしちゃっても知りませんからね?

勘違い、か・・・。

僕のこの本気の恋、他の女の子はともかく、柳っちだけには勘違いされてほしくなかったなぁ。

いや、いっそ勘違いでもいいんだ。

今日一日だけでもいい。こんなわがままな僕と一緒に、チョコサンデーを食べてもらえませんか?

・・・あ、う・・・。

て、店長ぅ~・・・。

・・・柳くん。なにをぼさっとしてるんだね。お客様を待たせているぞ。早くチョコサンデーの手配を。

いや、ちょっと待てよ。確かサンデー用の生クリームを切らしていたような・・・。

すまない、柳くん。私はこれから買い出しに出かけるので、店番を頼む!

え、店番ですか?

それと、私が生クリームを買ってくるまでの間、どうにかチョコの部分だけでも繋いでおいてくれたまえ!

そんな・・・、チョコサンデーのレシピは店長しか知らないじゃないですか!

チョコなら、既に間に合わせがあるだろう?カバンの中に・・・。

いや、むしろ彼にとっては、チョコサンデーよりもよっぽど価値のあるものかもしれんがね・・・。

それでは、行ってくるぞ。

店長ーーーー!

・・・・・・。

・・・あ、あのっ。本田センパイ!

うん?

ちょ、チョコサンデーのほうは、多分当分食べられそうにないので・・・、代わりといっちゃなんですが・・・。

これ・・・受け取ってもらえますか!?

・・・これって・・・まさか!

センパイ・・・。

・・・ハッピー、バレンタインッ!

皆さんは、どのようなバレンタインデーをお過ごしになりましたか?

ハッピーバレンタイン!

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Posted at 2015/02/15 01:50 Viewed 9 times

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チョコの誘惑なんて、家に引きこもっていたワタシにしかくなし

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