ひな――――! ちょっと来て!
お母さん、呼んだ?
うん。
ちょっと大事な話があるから、聞いて欲しいの。
なあに?大事な話って……。
うん……。ちょっと言い難いんだけど……。
お母さん、来週栄養学会の発表会に参加しなくちゃいけない事になったから、
次の木曜日から土曜日の夕方まで家を空けてしまうのだけれど……。
じゃあ、その間はお父さんと二人でお留守番なんだ……?
それがねえ……。
お父さんの方もその週の水曜から金曜日まで、札幌の方で医学会があるとかで家に居ないのよ。
え!じゃあ、木曜日から金曜日の間は雛子独りだけ?
(やった――!夜更かし出来るじゃん!)
(あ……、でも御飯とかどうしよ……?)
そうなのよね……。お祖父さんやお祖母さんにも(遠方だから)来て貰う訳にもいかないし……。
それでね、お母さんの伝手でベビーシッタさんを頼んであるから。
悪いけど、ひな。来週の木曜日と、金曜日にお父さんが戻られる間、その人と過ごしてくれないかしら……。
掃除洗濯は勿論、御飯も栄養が偏らない範疇でひなの好きな物を作って貰えるように頼んであるから。
うん、わかった……。
(知らない他人と一緒に過ごすのかあ……。)
(ちょっと気が引けるなあ。)
当日……。
お母さん。そろそろ出ないと、雛子遅刻しちゃうよ――――!
ベビーシッターの人って、まだ来ないの?
まあ、もう少し待って。もう来る筈だから。
ピンポ――――ン……。
ほら、来たわよ!
いらっしゃい。さ、入って来て。
お邪魔します。そしてお早うございます、藤井先生。
悪いわね。荒木さん。こんな事で呼び出してしまって……。
いえ、先生の為ですから……。
えっと、お母さん……。この人が?
ええ、今日から短い間だけれど、ひなの事をお願いする荒木雫さん。
お母さんの大学で、お母さんが教えている学生さんよ。
さ、ひな。お世話になるんだからきちんと挨拶をなさい。
あ、初めまして。藤井雛子です。 宜しくお願いします。
此方こそ、初めまして。雛子ちゃん。荒木雫です。宜しくね!
ところで、あの……、先生?
あら、なあに?
先生がお留守の間、お嬢さんの身の回りのお世話をしたら……。
本当に基礎栄養学と食物栄養科学Ⅰ講とⅡ講と調理学ⅠとⅡ、
それと総合家政学の計12単位、頂けるんですよね?
…………?
勿論よ!
わたしだって不本意だけれど、これ以上自業自得とは云えあなたにわたしの授業を落とされたら……。
さすがに教育指導に問題が有りとして大学と文科省に睨まれるもの。
それにあなたの担任教授である上原先生からも是非にと頼まれているしね。
まあ、応用と実践的な実習も兼ねたアルバイトとして、今日明日頑張って貰えないかしら。
もし、わたしも舌を巻く位上出来なら、単位とは別にお給金も弾むわよ!
それじゃあ、早速お願いするわね。
じゃあ、ひな。そこまで一緒に行きましょう。