・・・・・。
できれば女の方の相手が良かったんだけどよー。
まあ、いいか。 上級生への対応ってやつを分からせてやるぜ、クソガキ。
・・・・・来い。
――スッ。
クマとグレイ(兄)がそれぞれ構える。
クマは半身で右腕を顔の高さまで上げ、左は肘を脇腹につけ、拳は顎の高さまで。 体をゆっくりとリズムを取るように上下させる。
ボクサーに似た構えである。
グレイ(兄)もクマと似たような構えだった。違うのはクマとは構えが逆である事くらいか。
クマはグレイ(兄)のその構えを見て様になっていると思った。
(ただのチンピラ・・って訳じゃあないみたいだな)
と、
グレイ(兄)が一気に間合いを詰める。
(速いっ!)
そして、右のローキックを打ち込んでくる。
・・・ッ!
クマが足を上げそれを防ぐ。
今度は顔面に向かって拳が飛んでくる。
左ジャブ。 左ジャブ。
これも右腕で払いのけるように捌く。
・・シッッ!!
・・・・スッ。
クマがお返しとばかりに左の蹴りを繰り出そうとするも、それよりも早く後方へ蹴りの届かない間合いまで逃げられる。
ブンッ!
クマの蹴りが空を切る。
その隙を狙って、グレイ(兄)がまた間合いを詰める。
左。右。左。右。
突きの連打。
「・・・クッ」
速い・・・が、捌けないわけじゃない。
なにより一撃一撃が軽い。
連打を捌きつつ隙を窺う。
(ここだっ!!)
左ストレート。
が、再び後方へ飛ばれ空を切る。
・・・チッ。
クマが舌打ちをする。
グレイ(兄)が間合いを詰め、速いが軽い打撃を打ち続け、クマが少しでも攻撃の気配を出すと逃げる。
このような展開が何度か続いた・・・。
・・・・ッッ!!
クマは序々に苛ついてきていた。
間合いの詰め方、逃げ方が上手いグレイ(兄)に対して攻めあぐねている自分にもだが
なにより、相手をおちょくるかのような闘い方にいらついていた。
~~~~♪
(このやろう・・・)
(次に間合いを詰めようとした瞬間)
(そこを・・・叩く!)
クマは待った。
グレイ(兄)が間合いを詰めてくるその瞬間を。
・・・しかし
・・・・・。
今度は動かない。まるでクマの考えを見抜いているかのように。
傍から見ればただ見詰め合っているかのように二人は動かない。
二人の距離も微妙である。
届きそうで届かない・・・。
二人が動かないまま、時間だけが過ぎて行く・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
ジリ・・・。
!!
シュッ!
(しまっ・・・!)
拳を打ち込んだ瞬間、自分がいかに冷静さを失っていたか自覚した。
痛い程に・・・。
一瞬距離を詰める仕草をしてこの一撃を誘ったのである。
普通の状態なら分かり易いほどの罠。
しかし、先ほどからのチクチクした展開にイラついていたクマには何と効果的な罠だったろうか。
ニヤッ・・・。
クマの拳を余裕を持って避けたグレイ(兄)の
今までとは比べ物にならない鋭い蹴りが
クマの喉元に向けて放たれた・・・。