“『第一次上田合戦:第二幕:上』”

第二幕:神川(かんがわ)合戦

・・・・信濃国上田、神川付近・・・

八重原台地で合流した徳川軍は、千曲川を渡った後、北西に向けて進軍し、真田家の上田城に迫りつつあった。

ザッザッザッザッ・・・

ザッザッザッザッ・・・

ザ・・・

・・・・・・。

気に入らんな。

はい、釈然としませんね。

鳥居様・・・いや、鳥居と平岩は腹に一物ある。いったい何を考えている。

あのお二人は甲斐にお住まいですから、信濃の事情に詳しくないだけでは?

だとしたら何も考えていないと言う事だ。余計に始末が悪い。

兄上が、心配だ・・・。

・・・・二時間ほど前のこと・・・・ ・・・・・八重原台地にて・・・・・

哨戒に奇襲に備えた後方待機? そんな段取りになってたの?

かくかくしかじかー・・・

確かに真田って、もと武田の連中には評判が良いけど、そんなに警戒するべきなのかなあ?

三方ヶ原(みかたがはら)以前の徳川じゃあるまいし、万に一つも負けは無いと思うんだけどなあ。

【三方ヶ原の戦い】 1573年に遠江(静岡県東部)の三方ヶ原周辺で発生した戦い。

織田・徳川連合対武田の間で行われ武田が大勝利した。家康が逃走する時のエピソードはあまりに有名である。

武田信玄 「○(ピー)ねぇぇええええええ!」

徳川家康 「いやぁああああああああああ!」

はぁ・・・はぁ・・・に、逃げ切れた・・・。

真田昌幸 「誰が逃げ切れたって?」

アッー!

成瀬正義(なるせ・まさよし) <「殿、ここはわたくしに任せ、お逃げください!」

ちっ!

「家康様、万歳!」>            ザシュ!

正義・・・すまぬっ。 すまぬぅううぅぅ・・・

ぜぇ・・・ぜぇ・・・。

今度こそ、逃げ切れたか・・・。

忠臣を数多く失った・・・。 なんと哀れな身であることか・・・。

尻が・・・生温かい。ふっ、こっちの身も追い出されてしまったことよ。

徳川兵士 「おい、くせぇぞ! 誰だよ味噌漏らしたやつ! 」

私だ。

お前だったのか。

徳川家の

忘れる事を禁じられた

<              > <     負け戦      > <              >

徳川家にとって、あまりにもトラウマな出来事であった。

三方ヶ原を覚えているのなら・・・

この戦いも油断するべきではないと思うんだけど。

うーん・・・。

油断だなんて、心外な言いようね。

鳥居っち!

大久保兄、冷静になってよ。相手は片田舎の豪族よ? 何をそんなに怖がっているの?

その片田舎の豪族は、甲斐一乱で万を超える北条軍を撤退に追い込んだんだよ?

あら、それは依田が玉砕覚悟で城を守っていたのを利用して、真田が北条の後ろを突いただけでしょ?

そう、突いただけだ。敵の弱点を明確に見抜き、最小限の攻撃で崩さなければできないことだ。

甲州流軍学は、敵の弱みに付け入るのが常。それを鮮明に引き継いでいるのが真田・・・そうは思わない?

チッ

よくそんな悲観主義で将をやってられるわね。尊敬するわ。

現実的だと言ってほしいね。

ふ~ん・・・。

現実的なのは良いとして、もっと大きなこと忘れてない?

んん、なんだろう? ちょっと分かんないなあ・・・。

(ま、多分、上杉のことだろうけど・・・)

(・・・へぇ)

(援軍の私たちに顔を立たせるつもりはあるけど、真田に関しては譲らないつもりかしらね)

(気に入らないわね。私たちが来なければ攻めることもできないのに・・・)

(私より頭が回るって言いたいの? 良いわ。あんたがそのつもりなら)

(この戦の主導権、全部もぎとらせてもらうから・・・!)

(鳥居のことだ。甲斐に領地をもらって調子に乗っているだろう。下手に口を挟むとヘソを曲げかねない)

(大局的なことは、うまくおだててやってもらう。でも、弟たちのためにも、真田のことだけは譲れない!)

二人とも、なんでピリピリしてんのよさ? 仲悪かったっけ・・・?

ま、いっか! ぶっちゃけどうでもいいし!

ゴゴゴゴゴゴ・・・。

・・・そう、まずは上杉のことね。

※1585年の『大雑把な』勢力図※

※関係のある所だけピックアップ※

まず、真田は北を上杉、南東を北条、南西を徳川に接している。これはいいわね?

真田って思ったより広いよね。

小県(長野県東部)の他に、上野(群馬)の北部を手に入れてるんだもの。そりゃそうよ。

この三つの勢力の内、北条、徳川と新たに敵対することになった。さて、真田に勝ち目はあるかしら?

国力の差からして、全くないね。

でも、やりようはある。

そう。 実は敵対関係はこれだけじゃない。

作者の知っている限りでも、ざっとこんだけあるわ。

矢印が向き合っているのが敵対関係。帯状になっているのが同盟関係にあると思ってね。

見づらい! ゴチャゴチャしてる! わけわかんねぇ!

っていうか真田、全方位にケンカ売り過ぎじゃない?

まあ、細かいところは番外編でやるとして・・・。

見てほしいところは、徳川と北条の部分ね。

徳川は、北条と一緒に真田を攻めてるんだね。

利害の一致ね。徳川は、ワガママな真田を潰したい。北条は、真田の東部分(沼田)が欲しい。

※徳川と北条の理想的な未来※

真田、二つの大国に攻められ、壊滅!

ざまぁwww

だったらどんなに楽か・・・。

徳川は、豊臣とも敵対してるんだよね。

そして豊臣は、上杉と同盟を結んでいるわ。つまり、徳川と上杉は敵対関係になる可能性があるってこと。

まだ上杉と表だってケンカはしてないもんね。

でも豊臣か上杉が、真田に支援をするかも知れなくて、事情がややこしくなる可能性がある。

え、上杉と真田ってケンカしてるじゃん?

「猿の一声」で仲良くなるかも知れないわ。

「可能性」「かもしれない」ばっかりだね!

たられば、を考えなくては戦国時代を生き残れないわ。ま、考えるだけで実践するのはその内の一つだけど。

その、たられば、で考えると、北条は不安要素がたくさんありそうだね。

徳川の東にある大国ね。

そうね。パッと見ただけでも真田、ゴチャゴチャ(宇都宮、壬生、皆川)佐竹、里見・・・敵が多すぎる。

でも裏を返せば、それだけの敵を同時に相手にできる国力があるって意味でもあるわね。

下野(ゴチャゴチャ=栃木)は北条派、宇都宮・佐竹派で割れてるし、かつて権勢を誇った里見も今ではこの有様。

元気なのは佐竹だけね。

でもこの北条有利の構図も、「鶴の一声」ならぬ「猿の一声」で逆転する可能性がある。

「北条を倒すのじゃー! ウキー!(裏声)」

徳川にしろ、北条にしろ、敵対している豊臣がジョーカーを握っているという事実が、厄介極まりないわけよ。

ジョーカー、すなわち内裏(だいり)だね。京都を手中に納めているんだから当然だ。天皇を利用できる。

でも、豊臣も二か月前から四国の長宗我部と戦っているし、こちらに介入してくることはない、と思いたい。

長宗我部(ちょうそがべ)ってどこだったかしら?

※四国の長宗我部(ちょうそがべ)さんの位置をご確認ください・・・。

これだけ離れていれば、こっちには手を出してこないでしょ・・・。

で、上杉のことね・・・。

ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ

(何でこんな長々と説明しちゃったのかしら・・・)

そう、その『敵になるかも知れない』上杉のことよ。

真田への対策は万全みたいだけど、もし上杉が真田と組んで攻めてきたら、どうするつもりかしら?

哨戒はともかく、後方待機で兵を遊ばせる余力なんて私たちにあるの?

どうかな? 今、上杉では内乱が起こっている。『新発田重家の乱』がね。

※上杉氏の領土の北の方で、文字が潰れているのがそうです。

加えて、豊臣に要請されて越中(富山)の佐々攻めもしなければいけない。

※越中(富山)の佐々氏の位置をご確認ください。

僕たちと戦う愚を、上杉は犯すかな?

あ、ついでに言えば、真田への策は依田くんの献策なんだ。

彼も若いとは言え、真田のことは僕たちの誰よりも知っている。

僕たちはその策に、耳を傾けるべきではないだろうか?

ふーん、依田のねぇ・・・。

(ちっ! 断りにくい!)

(依田は家康様のお気に入りなのよ! 理由も無く策を蹴ったら家康様に嫌われる!)

(何か・・・良い理由・・・良い理由は・・・。)

(よし、さすが康国くんパワー! 効いてる、効いてるぞ・・・!)

依田さん・・・依田さん・・・ムニャムニャ・・・。ありがとう、ありがとう・・・。

・・・大変心苦しいんだけど、ちょっと無理ね。

えぇー、なんでー!?

恥ずかしい話だけれど、私たち・・・鳥居と平岩は真田に対して油断があった。これは認めるわ。

むにゃ・・・?

ゲシッ!

(良い加減起きなさいよ!)

兵士たちにはもう、最前線で戦わせるって約束しちゃったし、手の平返しはちょっと、ね・・・。

そ、そうかなあ・・・。鳥居さんの才覚ならみんなついてくると思うんだけど・・・。

問題はそこよ!

どゆこと?

今回のことで分かったの。あたしなんてあなたの足元にも及ばないダメダメな将なのよ。

えっ?

兵士に空約束しちゃうし、ただ突っ込むような指示しか出してないし、大軍に安心して油断もしていた。

こんなあたしに、兵士たちは着いてきてくれるのかしら・・・。いいえ、きっと見限ってしまうわ・・・。

そんなことないよ! 鳥居さんは今川時代から家康様を支えて来た勇将じゃないか!

あなたならできる!

そうだよ鳥居っち! 元気出して!

(ちょっと黙っててね)

いいえ、無理よ! あたしなんかに哨戒と後方待機なんて重要な役割、こなせないわ!

あたしでは役不足なのよ!

そんなことないよ鳥居さん! あなたならできる! 僕はそのことを知っている!

あぁ、大久保さん、あなたと一緒に戦えてこんなに心強いなんて、本当に幸運だわ・・・。

もう、何も怖くない・・・。

そう、何も怖いことなんてないよ!

じゃ、哨戒も後方待機もいらないわね。

!?

怖いのは真田より上杉ってね。やるなら一人でやってね~。

と、鳥居っち?

待ってよ~。

orz

・・以上二時間程前のことでした・・

鳥居と平岩は、哨戒の役目も、後方待機の役目も果たすつもりがない。

面倒な役は私たちに押し付けて手柄を独り占めするつもりか?

もしくは、大久保様にライバル意識を燃やしているのでは? とりあえず大久保様の案を潰したかったのかと。

鳥居様と平岩様が協力してくれなければ、私たちが哨戒と後方待機に兵を割かなければならない。

しかし計画通りの規模で哨戒や後方待機に人数を割くと、我々で攻撃できる人数が千以下になってしまう。

・・・何が哀しくて、敵と同じ人数で城攻めなんぞせねばならんのだ。

古来より、城攻めには三倍の兵力が必要と言いますものね。全軍で六千は攻撃に回さないと・・・。

・・・いまいましい!

我々の作戦を論破するのではなく、圧力をかけて潰してくるとは! まるで敵ではないか!

これだから頭の固い老人(※)は!

↑25歳(忠教)   15歳(康国)↑

↑53歳(忠世) 46歳(鳥居元忠)↑

↑43歳(平岩親吉)         45歳(徳川家康)↑

ま、まあまあ・・・。

もう事前にできることは全てやりました。後は天命を待つのみです。

(そう、天命を待つしかない・・・。今は、まだ・・・)

・・・・・・・三十分後・・・・・・

・・・・神川(かんがわ)・・・・

(ここまで真田の「さ」の字も見当たらなかった・・・)

(やはり定石通り、川を渡っている最中に奇襲してくるだろうか。それともあえて素通りさせてくるか・・・)

(いずれにせよ、神川を渡ることで真田の戦略が垣間見えるはず。ここが勝負どころだ!)

(でも、なんか妙なんだよな・・・)

なんか・・・風景に違和感が・・・。

依田・斥候 「えーっと、この辺りが最も渡りやすい場所になりますね。」

渡った先の土地も開けていますし。

うん、ありがとう。奇襲を受けにくい場所で助かるよ。康国くんの部下はさすが、地理に精通しているね。

あ、あと今更で申し訳ないんですが、ちょっと気になる事が・・・。

ちょっと大久保兄。なに止まってんのよ。さっさと渡っちゃいなさいよ。後ろがつかえてんだけど!

あぁ、もう、タイミング悪いなあ。

ま、構わないや。で、何?

その・・・先日雨が降ったんですけど、水量がいつも通りだなあ、と思いまして・・・。

・・・いつも通り、ね。

ちょっと、大久保! さっさと進みなさいよ!

まあまあ、ちょっと待ってよ。今、大事な話を・・・。

<六文銭! <真田だー! 真田が出たぞー!

おおっと!?

あぁ、もう言わんこっちゃない!

・・・・・神川対岸:真田軍・・・・

真田農民兵1 「ど、どどどどどうすんべ!」

大軍だべぇー!

真田農民兵2 「も、もう駄目だ・・・。おっかさん・・・ごめんよ・・・」

むりむりむり! 200vs7000とか「300」もかくやだべ! 死んぢまう! オラたち死んぢまうー!

Ario(アリオ)の東宝シネマに潰された地元映画館の如く殺されちまうー!

終わりだー! うわぁー!  おっかさーん!

・・・・・・・徳川軍・・・・・・

プッ、あいつら、俺たち見てめっちゃ慌ててやがんの。

待ってろよ・・・突撃の命令が出たら俺の槍が貴様らの血をテヘペロだぁー!

・・・・・・。

ちょっと、こっちが攻める前からもう相手が混乱してるんだけど・・・。

・・・・・・。

<殿、突撃のご命令を! <一番槍の誉れをわたくしに! <真田恐れるに足らず!

ほらね、もう、大久保兄は心配性なのよ。さっさと蹴散らしちゃうわよ!

総員、突撃ー!

うぉおおおお! 家康様万歳ー!

バシャバシャバシャ・・・

・・・・・・。

大久保隊も続けー!

おぉおおおおおお!

・・・・・・・真田軍・・・・・・・

あぁぁあああ! 渡ってきたぁあああ!

おっかさん! おっかさぁあああん!

逃げたいですか・・・?

えっ?

・・・へ?

逃げたいですか、農民兵の皆さん。

あ、当たり前だべ! おらたちはおサムライ様とは違うべ! ただの農民だべ!

逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい。逃げたいに決まっている!

農民兵の皆さん、落ち着いてください。

さ、真田の若様だべ・・・。

敵が目の前にいるのに、なんて堂々としてらっしゃる・・・。

農民の皆さん、怖がるのは当たり前の事です。いくつもの戦場に立った私でさえ、未だに怖い。

それでも私たちは、足の震えを抑え、呼吸を整え、敵をにらみつけるのです。

ほら、よく見なさい。川を渡る徳川の兵士一人一人を。

・・・神川を渡る徳川軍の様子・・・

くされ真田ぁあああああああああ! おらぁああああああああああああ! くたぶぁれぇええええええええ!

○す! ○す! ○す! ○す! ○す! ○す! ○す! ○す! ○す! ○す! ○す! ○す!

ガタガタガタガタガタガタ・・・

恐れるのは当然です。しかし、我慢して敵を引きつけるのです。さあ、引きつけて引きつけて引きつけて・・・

さあ、逃げよう。

・・・・・・。

ふぁい!        ふぁい!

ピュー!

ジャバジャバジャバ・・・。

あれ、に、逃げやがった?

え? え?

・・・・・・。

ニヤリ

追い首じゃあああああああああ!

ぶっ○せぇえええええええええ!

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Posted at 2012/12/12 05:07 Viewed 11 times

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とりあえず『上』です。例のごとく長い。クソ長い。説明回乙。そして平岩さん(史実)ファンごめんね。初めてやったけど腹芸って難しい。(興奮して詰め込み過ぎたね、そうよね・・・)http://www.kimip.net/play/Lg1ML(第一幕)http://www.kimip.net/play/6p3k4(第二幕:中①

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