嬢「ん、ん~…」
俺(は!何やってんだ、俺。可愛かったから、つい衝動に駆られて…)
嬢「あの、ここって、どこですか?私、確か公園にいたはず…」
俺「あぁ、気がついたか。ここは俺の家だよ」
嬢「…へっ!?私、どうして…?」
俺「それは、まぁ、俺が誘拐したから?」
嬢「ふ、ふぇ~!?ゆ、誘拐!?」
俺「別に、特別何かしようって訳じゃない。ただ…」
嬢「…ただ?」
俺「俺の側に居てくれるだけでいい」
嬢「それ、だけ…?それだけのために、私を…?」
俺「そうだ」
嬢「そんなぁ…。ヤダよぉ、お家帰りたい~」
俺「まぁそう言うな。身の回りの世話は、ちゃんとしてやるから」
嬢「でも、お母さんとお父さんには会えないんでしょ?」
俺「そう、だな。…会いたいのか?」
嬢「当たり前だよ!!」
俺「そうか、そういうもんか…」
嬢「あなたは、お母さんやお父さんに会えなくなったら、会いたいと思わないの?」
俺「ははっ、俺にはお父さんもお母さんもいないからな。顔もわからないし、会っても誰だかわかんねぇから、会わなくていいかな」
嬢「…一人、なの?」
俺「おうよ。施設で育って、今は一人暮らし中だ。血縁者は、誰一人顔もわかんねぇ」
嬢「そう、なんだ…。寂しくないの?」
俺「寂しくなかったら、側に居てくれ、なんて、言わないと思わない?」
嬢「…そうだよね。察し悪くて、ごめんなさい」
俺「おいおい、謝ることじゃないだろ。気にするな」
嬢「うん…って、それとこれとは話が別!お家に帰してよ!」
俺「えー」
嬢「そろそろ悲鳴あげちゃうよ?早く帰して!」
俺「悲鳴あげたら、その口にキスするからな?」
嬢「っ…!?じゃ、じゃあ、泣き叫ぶよ?」
俺「そしたら、優しく抱きしめて、泣き止むまで頭を撫でてやるよ」
嬢「……」
俺「どうした?」
嬢「…どうしたら、帰してくれるの?」
俺「お前に飽きたら、帰してやるよ。ま、ないと思うがな」
嬢「どうして私なの?世界中に、もっといっぱい女の子がいるのに、どうして…?」
俺「そんなの決まってる。お前が世界中の女の子の中で、一番可愛いからだよ」
嬢「…私が、可愛い…?ふ、ふんっ、そんなのには騙されないんだからっ///」
俺「信じてもらわなくてもいいけど、俺はすごく可愛いと思うぞ?お前」
嬢「…そう、かな…」
俺「あぁ、世界で一番だ。もっと自信を持て!」
嬢「あ、ありがと…。…また話そらされちゃった」
俺「俺、今すごく楽しいんだ」
嬢「何で?」
俺「妹がいたら、こんな感じかなってな」
嬢「私も、一人っ子だから、兄がいたら、こんな感じ、なのかな…」
俺「何ため息吐いてんだよ?」
嬢「何か、誘拐犯っぽくないよね?」
俺「そうか?まぁ慣れてねぇしな」
嬢「慣れるもんなの?っていうか、何回かやってるわけ?」
俺「いや、拐ったのはお前だけだよ。お前がそんなに可愛いからいけないんだぞ?」
嬢「はぁ…。可愛いって、罪なのね」
俺「そうそう、そんな感じで自信をつけてけ」
嬢「…わかったよ。私、悲鳴あげたり、泣き叫んだりしない。…それから、少しだけ、ここにいてあげる」
俺「いいのか…?」
嬢「キスされたり、抱きしめられたりしたくないからね」
俺「そうかい。…ありがとな」
嬢「ほ、ホントにちょっとの間だけだからねっ///」
俺「俺、明日バイトなんだけど、逃げんなよ?」
嬢「えー?どうしよっかなー?ってかバイトしてたんだ。何のバイト?」
俺「明日はファミレスだ。バイトしなかったら、暮らしてけねぇっつーの。それに、二人分になるわけだしな。気合い入れてかねぇと」
嬢「そ、そだね。…ホントに、いいの?」
俺「何が?」
嬢「身代金を要求するつもりはないんでしょ?そしたら、私の世話も、あなたのお金ですることになるじゃない?」
俺「別にいいさ。軟禁されてる身分で、そんなこと気にするなよ」
嬢「は、はい…」
俺「そしたら、今度は服も買ってやらねぇとな。ずっと同じ服ってわけにもいかねぇだろうし」
嬢「い、いいの!?そんなことまで…」
俺「俺の財布なんか気にすんな。ワガママは、言うのはタダだからな。遠慮なく言え」
嬢「お家帰りたい」
俺「それはダメだ。っていうか、ちょっとの間、ここにいてくれるんじゃなかったのか?」
嬢「言ってみただけ。どうせタダだし」
俺「そうかい。そろそろ晩飯作るか」
嬢「料理できるの?」
俺「まぁな。これでも一人暮らしして長いんだぜ?」
嬢「へぇ、どれくらいなの?」
俺「一年と三ヶ月だ」
嬢「ふーん。長い…?いや、短いとも言えないけど…、みたいな感じだね…」
俺「まぁ、そんなのはどうだっていいじゃねぇか。ところで、好き嫌いはあるか?」
嬢「キノコ類とー、あ、あとトマト嫌ーい」
俺「美味しいのに…。栄養豊富なんだぞ?とりあえず、今日は入ってないから、安心しろ」
嬢「"は"って、今後入れるつもりなの?」
俺「好き嫌いは、よくないぞ?」
嬢「…いじわる」
俺「これでも誘拐犯だからな」
嬢「開き直らないの。…ホントだ、結構手際いいね」
俺「だろ?お前は料理できんのか?」
嬢「もっちろん!これでも女子力磨いてますから」
俺「へぇ、じゃあ今度、お前にも作ってもらうか」
嬢「えっ?」
俺「俺よりも美味いかどうか、判定させてもらおう」
嬢「何ぃ!?私が男の料理なんかに負けるわけないもんっ」
俺「それは、こいつを食べてから言うんだな」
嬢「すごい!美味しそう!」
俺「今日は格別、愛がこもってるからな」
嬢「えぇ…、なんかキモい…」
俺「誰かのために作るのは、これが初めてだからな」
嬢「そ、そういう意味か…」
俺「どういう意味だと思ったんだ?」
嬢「べ、別に?どうでもいいじゃん?そ、そんなことより、早く食べようよ」
俺「焦って火傷するなよ?」
嬢「ふぅー、ふぅー」
俺「猫舌なのか?」
嬢「悪い?」
俺「いや、可愛いなぁ、と思って」
嬢「そ、そう…。ん、悔しいけど、美味しい…」
俺「どうだ?恐れ入ったか?」
嬢「で、でもでも、私の方が、美味しく作れるもんっ」
俺「明日のバイト、午後からだからさ、午前は一緒に買い物に行かないか?」
嬢「ん、いいよ」
俺「先に言っとくが、俺の財布を気にして遠慮なんかするなよ?」
嬢「あ、逃げるなよ、とかじゃないんだ」
俺「まぁ、それもある」
嬢「わかってますよー。遠慮なんかしないから、覚悟してよね?」
俺「そうこなくっちゃな」
嬢「あ、あの、お風呂は?」
俺「すぐそこの扉入ったとこにあるぞ。沸かしとくか?」
嬢「シャワーでいいよ」
俺「了解。タオルは戸棚の中にあるから、適当に使ってくれ」
嬢「はーい。…くれぐれも、覗かないでね?」
俺「女の子の風呂を覗く趣味はねぇよ」
嬢「女の子を拐う趣味はあるのに?」
俺「趣味じゃねぇよ」
嬢「ホントに覗かないでよ?絶対だからね?」
俺「そんなに言うと、まるで覗いてほしいかのようだぞ?」
嬢「や、やめてよ?」
俺「いいから早く行けって」
俺(可愛い奴だな。これから、ホントにどうするかな。まぁ、なるようになるか。捕まるか捕まらないかは、運に任せよう)
嬢「えっと、どこで寝れば、いいのかな?」
俺「…あ、あぁ、俺の布団使っていいよ。俺は床で寝るから」
嬢「あの、恥ずかしいから、あんまり見ないで」
俺「ご、ごめん。シャワー浴びてくるよ」
嬢「う、うん。お先に、おやすみ」
俺「おやすみ」
・・・・・・
俺「ふぅ。あ、寝てるのか」
嬢「…すぅ…ん~、すぅ…」
俺「早いな、もう眠ってるのか。寝顔も可愛いな。…おやすみ、また明日な」
―翌朝―
嬢「ん、ん~。…そっか、私…」
俺「ふぅ…すぅ…」
嬢「誘拐犯のくせに、なんかいい人なんだよね。やっぱり、家族がほしかっただけなのかな…」
俺「ん~、ふぁ~あ。…おはよ」
嬢「お、おはよ」
俺「あぁ、ごめん。今、朝飯作るよ」
嬢「あ、どうも…」
俺「先に、顔洗ってきたら?」
嬢「ふぇっ!?そ、そうする!」
俺「まぁでも、寝起きも可愛いけどな」
嬢「もぅ、そういうんじゃなくて、みっともないじゃん!」
俺「そうか?別にいいんじゃねぇか?」
嬢「よくないの!」
俺「そ、そうですか…」
嬢「まったく…」
嬢「今日は服、買ってくれるんでしょ?」
俺「あぁ」
・・・・・・
嬢「どこまで行くの?」
俺「お前といる限り、どこまでも、かな」
嬢「ちょっと、真面目に答えてよ」
俺「着けばわかるさ」
嬢「だいたい、二人乗りだって本当はダメなんだよ?」
俺「そう堅いこと言うなって。ほら、着いたぞ」
嬢「ここかぁ。確かに、ここならある程度何でも揃うね」
俺「だろ?時間も限られてるから、さっさと回ろうぜ?」
嬢「りょーかい!」
・・・・・・
俺「とりあえず、まずはあそこからだな」
嬢「へっ!?ちょっと、あそこランジェリーショップだよ?」
俺「会計だけしてやるから、好きなの選んでこい。それとも、俺が選んでやろうか?」
嬢「それは遠慮しますっ!」
俺「なら早く選んでこい」
・・・・・・
嬢「ん~。…ちらっ、ちらっ」
俺(何でちらちらこっち見てんだよ)
俺「決まったか?」
嬢「うん。って、こら!見ないでよ!」
俺「いやいや、会計してるんだし、しょうがないだろ」
嬢「むぅ…」
俺「次は、服かな」
嬢「えーっと…、あそこのお店がいいな」
俺「わかった」
嬢「早く早くー」
俺「おい、あんまりはしゃぐなよ?」
嬢「は、はしゃいでなんかないもんっ」
俺「はいはい。また会計だけしてやるから、決まったら言ってくれ」
嬢「……」
俺「な、何だよ?」
嬢「別に…」
・・・・・・
嬢「…どう?」
俺「え?あ、その…、似合ってるよ」
嬢「ホントー?じゃあこれとー」
俺「別に俺の意見なんか参考にしなくても…」
嬢「だって、どうせだったら自分好みのがいいでしょ?」
俺「別に、お前のありのままの好みでいいよ。俺に合わせることはないさ」
嬢「そ、そっか…」
俺「いや、気遣いは嬉しいんだけどさ、俺は気遣いを受けられる立場じゃないし」
嬢「そんなこと…!そんなこと、ないよ…」
俺「そう、かな」
嬢「…うん」
俺「ありがとう。優しいんだな」
嬢「可愛いだけの女じゃないよ?」
俺「そうだな。ますます惚れちまいそうだ」
嬢「えっ…///」
俺「ほら、さっさと選んだらどうだ?時間も気にしてくれ」
嬢「あ、うん。わかった…」
俺「よし、後は細かい日用品を揃えて、帰るか」
嬢「う、うん…」
俺「どうした?元気ないな」
嬢「ねぇ、一つ聞いてもいい?」
俺「何だ?」
嬢「…あのさ、あなたにとって、私は、何?」
俺「…俺が愛する、唯一の女の子、かな」
嬢「そ、そっか…///。…突然変なこと聞いて、ごめん」
俺「いや、いいよ。そういやずっと気になってたんだが、いくつなんだ?」
嬢「レディーに年齢聞いちゃう?」
俺「レディーなんてどこにいるんだ?」
嬢「あー、じゃあ教えなーい」
俺「ごめんなさい、俺が悪かったです」
嬢「しょうがないなぁ。えっとー、…歳です」
俺「…え?マジで?」
嬢「うん」
俺「そ、そっかー…」
嬢「それでも、私のこと、愛してる?」
俺「当たり前だろ?そんなことで、嫌いになるわけないじゃんか」
嬢「そ、そっか。…あの、浮気は、ダメだからね?」
俺「えっ…?それは、どういう…?」
嬢「ほーらっ、バイトの時間遅れちゃうよ?」
俺「あ、おい、待てよ。チャリ停めたのそっちじゃないぞ?」
嬢「えっ!?あははっ、やだなー、わざとだよぉ?」
俺「嘘つけ」
嬢「…ばーか」
俺「何だよ、急に」
嬢「ふふっ、何でもないよー」
俺「やけにご機嫌だな」
嬢「きっと、何かいいことがあったんだよ」
俺「そうかい」
嬢「少しの間っていう予定だったけど、…ちょっとだけ、延長してあげる」
俺「…ありがと、愛してるぞ」
嬢「私も…」
俺「へ?」
嬢「あぁ~っ!!な、何でもないのっ!わ、忘れて忘れて?」
俺「そ、そうか…」
嬢「いつか言える時が来たら、必ず言うから。だから、今は忘れて?」
俺「…わかった。楽しみにしてるよ」
終