やっぱり学校の先生になりたいと思った。
それはやっぱり、初等教育に置ける重要性と、子供の輝いている未来性が、とにかく小学生最高だぜ！ なわけで……。ごめんなさい、ロリコンなんです。
なんで、営業なんかやってたかな
ゴンッ！！
痛って！！ あ？ ボール？ どこからよ？
辺りをきょろきょろ。 誰も居ない。真昼間の公園なんだから、子供さえいない。
あ……
小さな声が聞こえてきた方を見る。 一軒家の二階から、少女が顔を覗かせていた。
あー……
手でボールを指差し、『これ、お前の？』なんて身振りで訊いてみる。
コクコク。
『よしよし。ならちょっと出てきなさい』
ふるふる。
『大丈夫、怖くないから』
……コク。
会話を身振りで伝えると、少女は戸惑いがちに家から出てきた。
全く、これが変なおじさんだったら大変な事になってるぞ！！ あ、私はロリコン紳士なんで、見る専なんですよ。
あの……ボール……
あー、まぁ、その前に言う事があるんじゃない？
あの……ごめんなさい
おう。ほら
ありがとうございます
そんで、何でボールなんて投げてたんだ？
……夏だから
夏だからねぇー。いやいや、夏関係ないだろ。っというか、学校はどうしたんだ？ まだ夏休みじゃないだろ？
……おじさんこそ、お仕事は？
おじさんは、永遠の夏休みなんだよ
……にーと？ っていう、あの噂の？
はっはっは、夏休みなんだよ！
じゃあ、私も夏休みなの
夏休みなら、友達とキャッチボールすりゃいいじゃないか
友達、居ないから……
そうか、小学生も大変なんだな
……。
ねぇ、おじさん。私と野球しよう
いやだよ。おじさん、どんなに頑張っても、ポジション九人分とか出来そうに無いし
てい！
ゴンッ！！
痛ってーよ！
野球……
それ野球だったら、デッドボールだかんな
ていくわんべーす！
知ってるなら、ぶつけるなよ。なぁ、他のじゃダメなのか？ バスケとか、バトミントンとか
持って無いし、野球が良いの
はぁ……。キャッチボールじゃ？
……ぎり許せる？
じゃあ、キャッチボールで
てい！
だから、危ねぇよ！！ ボール投げる時はちゃんと相手を見て、相手の胸に投げるんだよ
あー、ボール結構遠くまで飛んでんじゃん。面倒だな。
はぁ……よしと。行くぞ？ ほれ
ひょい。
避けんなよ
だって怖い……
怖がってたらダメだろ。キャッチボールにならんし
てい！
だから！ 思いっきり投げんなって。
全く、お前の投げ方の方がよっぽど怖いわ。最初は下手で投げろ、下手で
……。
ほら、今日はグローブ持ってきてやったから
グローブ？
野球選手が手にはめてるだろ
でっかい手袋！！
グローブって言うんだよ。あー、しかもそれ、左右逆にはめてるから
よし、ばっちこい！
これなら、怖くないだろ？ 素手じゃないし。ほれ
ひょい。
だから、避けるなよ
……。
てい！！
お、よし。大分、上手くなってきたじゃん
ドラフト一位？
まだ年齢がなー。惜しいな
そっかー、社会のしくみな？
難しい言葉知ってるな。……なぁ、何で学校行かないんだ？
……おじさんは何で会社行かないの？
大人は自分の自由で行かなくても良いんだよ。でも、子供はそういう訳にはいかないだろ
……学校行っても、詰まらないから
友達作ればいいじゃないか。一緒に野球やろうって
難しいから……
はぁ、俺には簡単に話しかけてきたのに
ねぇ、おじさん。もうすぐ夏休みになるから、プールに連れて行って。……この公園にも学校の子達が……
それは友達と行けよ。おじさん、まだ捕まりたくないよ
……だから、友達……
まぁ、別に良いけどさ。時間が経てば、色々と環境の変化で友達が出来たりもするだろうし。けど、まぁ、この夏は今年しかないんだけどな
？ 暑さでやられた？ 大丈夫？
本当に心配そうな顔すんなよ……切なくなるだろ
……。
おじさん……今日は、来ないのかな……
――
あー、しんどい
先輩、具合どうですか？
あ、まぁ、よくは無いけどまだ生きてるよ。それにしても、見舞いなんていいのにお前達もマメだな。もう会社も辞めたんだし、俺のことなんて気にすんなよ
そんなこと……
どうせ、長くないんだし
ほら、今は医療だって……
発見した時には手遅れだったってさ。後は転げ落ちるように悪くなるだけだろ
あ、私、飲み物買ってきますね
別に生きたいってわけじゃないけど、死にたくないな。 誰かに何かを残すような人生じゃなかったけど、死にたくは無いな。
まぁ、人生なんてこんなもんか。やっぱり、学校の先生になりたかったな
そうしたら、誰かに何かを残して、誰かの記憶に残れたのかな。
私の日記
「今日も友だちができなかった。はなしかけられなかった。なんかこわくなった」
「もうすぐ夏休だ。先生がしゅくだいをもってきた。絵にっき、どうしよう」
「テレビをつけたら、いっしょうけんめい、やきゅうをしてるお兄さんたちがうつってた。『こうしえん』っていうらしい。
みんなでいっしょによろこんでた。いいな。やきゅうっていいな」
「ボールをなげたら、おじさんに当ててしまった。でも、おじさんはやさしかった」
「今日はちゃんとボールを投げられるようになった。明日はもっと遠くからなげるれんしゅう」
「おじさんがこなかった。きっと、疲れてたんだと思う」
「今日もこなかった。おしごと、はじめたのかな」
「おじさんが来ないから、公園にいた子に話しかけてみた。がんばった。やきゅう、やろうって」
……。
「今年も、もうすぐ夏休みが来る。なっちゃんにプールに行こうって誘われた。でも、野球部の方と上手く都合が付かないかな。目指せ甲子園！！ みんなファイト！！」
「夏休み。今も思い出す。あのおじさんは今、何をやってるんだろうって。あのおじさんにもう一度会って、今の私の話をしたい。友達が出来たって。野球も上手くなったって。全部おじさんのおかげだって。
だから今年も忘れないように書いておく。おじさん、ありがとう」
