秋の到来を告げんとするツクツクボウシと、夏はまだ続くぞと言わんばかりのアブラゼミが鳴いている。
若干暑さも落ち着きだした気もする、九月はじめ。
……
神戸から越してきました、(主人公名)です。
そんな挨拶と共に、僕の新しい生活は幕を開けた。
どうしようもない親の転勤。僕ら家族は都会を離れ、ここ山口に暮らすこととなった。
高い建物が雑然と並ぶ故郷とは違い、背の低い民家や寂れた商店などがぽつぽつとあるだけのこの街に、
既に辟易を隠せない僕は、
よろしくお願いします……。
どうやら新しい学校にも、全くの興味を持てなかったようだ。
まばらな拍手。戸惑いと好奇の目線が次々に僕に刺さってくる。
ううん、どうもこういうのは慣れないな。転校なんて初めてだし。
(なんか、古いしエアコンないし、萎えてくるな……)
まぁ、あっちの学校でも成績トップだったんだ
こちらでもトップになることを目標にしてなんとかモチベーションでも保つかな。
幸いなことに……といっては変かもしれないけど、山口は神戸に比べて受験に対する意識が低い。
あっちでしのぎを削ってきた僕から見れば、このクラスにて談笑してる殆どの奴らには負ける気がしない。
まずは一ヵ月後の中間テスト……
一位をとる。
そう決めて、僕はどっかりと用意された席に腰を下ろした。
……。
そして一ヶ月後ーー。
なっ、一位じゃないだと!?
順位表に表示されていたのは、二位の下に書かれた僕の名前。
外野から賞賛の声は聞こえるが、そんなことはどうでもいい。
すが、はら……みち?
確かそいつ、僕の隣の席の……。
…。
……。
………。
僕より頭がいい人がこの学校にいるとは、正直思わなかった。
……私?
ああ、学年一位を取った君に言ってるんだ、菅原美智さん。
次の休み時間。僕はあまりにも悔しかったので、話しかけていた。
学年一位、菅原さんとやらに。
彼女は、ゆっくりとこちらを向いてくる。
学問というものに関しては、私は確かに人より優れてるかもね……。
嫌味か?
……学ぶことは、今の人にとっては嫌なことなのかな
? どういう意味?
あの頃は皆目を輝かせて、楽しそうだった……。時の流れは、人を変えてしまったのね。
関わってはいけないタイプだったか?
貴方は、どう……?
な、何が?
学ぶことは、好き……?
今思えばだが、彼女のこの質問に「はい」と答えていれば、あんな大変な事態にはならなかったのかもしれない。
しかしその時の僕は、何も知らなかったし、知りようもなかった。
嫌いだね。時間は食うし、面倒くさいし。
僕は単に人生真っ当に生きたいんだ。
だから今頑張ってるってだけで、勉強とか、努力とか、根本的に好きになれない。
……嘘ではない。だが、これは建前だ。
言ってて自分で虫唾が走る。
……嫌いだよ、好きな人なんているの?
ほんのひととき。彼女は僕の目を見つめ、すぐに顔を背けた。
そうね……。
僕を見つめた時、悲しそうな目をしていたような気がするが、気のせいだろうか。
菅原美智という同級生は、いわゆる「不思議ちゃん」として有名らしい。
どこか浮世離れしていて友達もおらず。
こちらから話しかけないとコミュニケーションもしない。
外見だけ見れば男の一人や二人くらいが言い寄りそうなものだが、
噂の力とは恐ろしいもので、彼女に話しかけた者は変人扱いだそうだ。
でもま、最近は特に変だな。
いや、前から十分変だったぜ?
ただ、余計悪化したっつーか、ボーッとしすぎてるっつーか。
とは、最近よく話すようになった同級生の言だ。
最近って、僕が転校するより前か? 後か?
さぁ? そこまで興味なかったしどっちとも言えんな。
あ、でもお前が転校して来てから更に悪化したような気もする。
ふーん…
まさかとは思うけど、一週間前のあのやりとりのせい……?
いやいや。
で何でみっちーのことなんか聞いてきたんだ?
まさか好きなのか?
やめとけやめとけ。学年中から噂されるぞ。
そんなんじゃないよ、先走りすぎ。
ただ僕からトップを奪った人のことが気になっただけだ。
てかみっちーて。
特に仲がいいわけでもなさそうなのに、よくもまぁ。
…。
……。
ちぇー、また追試かよぉ
お前も?俺も赤点だったんだよなぁ……おっかしーな。
うっそー! カナも平均より低かったの!?今回のテスト、全部平均下がったって先生怒ってたよねー!
うーん、ちゃんと勉強してたのになー……。
そういえばお前とみっちー以外の殆どがテストの結果が悪かったみたいだなァ。
ま、今回超難しかったもんな! 俺、赤点4つあるぜ!
……。
馬鹿ばっかりなんだな、この学校。