――怒張し、雄々しくそそりたったモノをキョウコの秘所にあてがう。
「ああぁっ……!」
キョウコは、己の口から漏れる矯声を抑えることができなかった。
ずちゃり、ずちゃり、と粘膜の混じり合う音。淫靡な音が暗闇に響く。
「はぁんっ!……らめぇぇ、……らめぇぇぇぇ……!」
蜜が溢れ、キョウコのももを濡らす。てらてらと光る、桃色に紅潮した皮膚が艶めく。
「あぁっ!……もう、らめぇぇ……!!」
ビクン! と大きく仰け反ったキョウコの身体は幾度も絶頂に達し――
「――――って」
「朝っぱらから卑猥なもんを音読すんなっ!」
「ぎゃっぁ!?」
端整に整った横っ面を思い切りひっぱたいてやる。ずれた眼鏡を片手で抑え、しかしもう片方は文庫本をしっかりと握ったまま離さない。
「痛ぁーっ……!」
「なんだよぅ……いきなり殴ることないだろう?」
「教室で官能小説を読むあんたが悪い」
「ちぇー、あとちょっとでいいとこだったのに。ごめんなぁ、息子よ」
「自分の愚息に話しかけないで」
「ははっ!愚息だなんて失礼だなぁ、亜季ちゃん。僕のぽこてぃんは後光が射すほどに立派だよぅ」
「爽やかに笑って下世話なこと言わないでくれる?」
「ほら、ぽこてぃん!亜季ちゃんに挨拶しなさい。ぽこてぃんちわ!」
「っ――!」
「んぎゃぁっ!」
握り拳を脇っ腹に叩き込むと、腹部を抑えてうずくまってしまった。
「あたた……。相変わらず手が早いな亜季ちゃんは」
「……ったく。朝から発情しないでくれる? 盛りのついた犬じゃあるまいし」
「犬? バター犬? あれ、エロいよね。でも僕、獣姦はあんまり好きじゃ――」
「――せいっ!」
「ぶべぇっ!!」
腰の入った回し蹴りを叩き込む。学習しない男だ。
「うぅ…暴力反対。ぽこてぃんがもげちゃうじゃないか」
「いっそのこと、もいでやろうか」
「ははっ! 随分と荒い去勢の仕方だこと」
「……」
相手にするのが面倒臭くなって、私は机に突っ伏した。
教室の喧騒。がやがやと、ざわざわと。飛び交う無数の言葉の応酬。
「ふんふんふ~ん♪ 君と僕の~ぽこてぃん革命~♪」
隣から聞こえてくる鼻歌は無視する。
始業開始のベルまであと数分。遅効性の毒物のように、じわじわと眠気が襲ってくる。
ついこの間まで春休みだったせいか、早起きに体がついてこない。早くも私は五月病のようだ。
部活にも所属しておらず、人見知りな私は交遊関係が狭い。新しいクラスに早く馴れようと躍起になるほどのバイタリティーもない。
ひとりぼっちになるのが怖いのか、皆、示し会わせたかのように笑顔を振り撒き自分の立ち位置を作ろうとしていく。
人付き合いが億劫な私には、決して真似できないし、そもそもその価値観が理解できない。
群れるのは面倒臭い。トイレの一つも一人で行けないだなんて、頭がどうかしてる。
――当然、こんな性格だから同性から嫌われる。陰湿ないやがらせをうけたこともあるし、変な言いがかりで突っ掛かってくる奴もいる。
性格悪い? 暗い? んなこと、当の私が一番よく知っている。協調性なんかありませんよーだ。
「ヤバい! 毎月11日は数字が勃起こいてるから月刊ぽこてぃんの発売日だぞ! みんな、購買部に急げ!」
しかし、物好きというのはいるもので、こんな私に何を興味を持ったのか積極的に関わろうとする奴もいる。
隣の席で淫語をぽろぽろ口にしている世良もその一人だ。
世良俊樹(せらとしき)。 昨年から引き続き同じクラスとなった調子のいい男。下ネタが好きで、老若男女、時と場所もわきまえずぺらぺらと下世話なことを口走る。
戸倉結衣子(とくらゆいこ)。 合法ロリ。中学からの後輩で、今年うちの高校に入学した一つ年下の幼馴染み。付き合いはそれなりに長いが何を考えてるかよくわからない。
ちなみにこの子も下ネタ好き。
世良も、
結衣子も、
変わってる。 けれど嫌な奴じゃない。 一緒にいて、楽しいとさえ感じる。
――亜季ちゃんは、ひとりぼっちなんかじゃないよ。
彼女の声。私の双子の姉妹。
人の温もりの暖かさ。 心地よいと、感じる。 けれど同時に怖くなる。
蝋燭はね、温かいと、
――溶けてしまうんだよ。
知っている。 私はそれを、よく知っている。






